【日曜日の朝は名古屋から】トランプ政権とリカードの比較優位論
おはようございます。悟空です。
前回のブログで経済学は「現実の問題にあてはめながら勉強すると、とても理解が深まります。」と書きました。
そこで、最近の現実の問題からひとつ興味深い話題を紹介したいと思います。週間エコノミスト3月28日号の特集、今話題の「トランプ政権の保護貿易」と「リカードの比較優位論」についてです。
1.保護貿易とリカードの比較優位論
トランプ大統領は「自由貿易が米国の中間層を苦しめている」として、最大の貿易赤字である中国を批判し、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しや、TPPを離脱するなど保護貿易つまり貿易を規制することを主張しています。
しかし、我々が「経済学」で勉強したのは、リカードの「すべての国が自由貿易から利益を得ることができる」として自由貿易を推進する「比較優位論」です。
つまり「生きていくうえで必要なもの全てを自給自足するよりも、各人が専門分野に特化した仕事を行い、モノやサービスを取引した方が、世の中全体が豊かになる。」ということ。もちろん、「すべての国」には、米国も含まれるはずです。
また、世界的な経済学のベストセラー「マンキュー経済学」の第5原理にには、「交易(取引)は全ての人々をより豊かにする」とあります。さらに、政府と民間のエコノミストいわゆる専門家の間では、自由貿易を尊重すべきという命題への賛同率は93%にも達するとしています。
私は当初、トランプ大統領は名門ビジネススクールのペンシルベニア大学ウォートンスクール出身で不動産王ともいわれる経済人、当然自由貿易を推進する立場であって、まさかTPPを離脱するなんて選挙期間中のリップサービスだろう、などと気楽に考えていました(恥)。
どうしてこういうことになるのでしょうか?
※「中小企業診断士の1次試験にそんなことはどうでもいい、比較優位の計算さえできればいいんだよ。」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、これらの理論を現実の問題にあてはめて理解すると、公式を覚えるだけのつまらない勉強ではなく、楽しみながら受験生活を送ることができますので、ぜひ一度考えてみてください。
2.揺れる経済学
そもそも、リカードの比較優位論は真理なのか?という疑問がわきます。実は、自由貿易に対し疑問を呈していた著名な経済学者はけっこういたようです。我々が経済学を勉強する上で、一番お世話になっているケインズ先生でさえ「自由貿易は純粋な仮定の領域以外には存在しない」と言ってます。
結局のところ、リカードの比較優位論も、従来の古典派経済学と同様に、ある一定の前提をおかないと成立しない「箱庭経済学」の理論に過ぎないようです。そうなると、トランプ政権の保護貿易政策もブレグジットも間違った政策とは一概には言えなくなってきます。
3.リカードの比較優位論が成立する前提とは
(1)リカードモデルはセイの法則が前提である。
生産したものはすべて売れるという、価格をパラメータとした需要と供給の関係です。自由貿易は生産を効率化するという理論ですから、ケインズの有効需要の法則によれば総需要が増えない限り売れ残りが発生し、失業者が増加するわけです。たとえ比較優位な産業に労働者を特化できても需要がなければ豊かにはならないってことですね。
(2)生産費用の動学的な変化はない
どんな産業でも、生産量が増えてもその限界費用に変化はないということ(だと思う)です。しかし、実際には工業製品は規模の経済により収穫逓増の法則が成り立つのに対し、農林水産業、天然資源産業は規模の拡大に対する生産性向上には限界があります(収穫逓減)農業に特化するよりも、工業に特化するほうが有利になるということです。
(3)労働力や資本が国境を越えることはない
生産された財のみが、国境越えるという前提ですが、実際のEUやNAFTAなど自由貿易協定を見てもわかるとおり、労働者も資本も国境をがんがん越えています。
したがって、米国はそれらの前提が現実にはありえないことから
①自由貿易によって供給過剰となり失業者を増やし
②工業ではなく農林水産業と天然資源産業に特化して不利な貿易をよぎなくされ
③NAFTAによってメキシコからの多くの移民を受け入れて米国民の失業を増やしてしまった
というように、不幸な結果を招いているわけです。
これがトランプ政権が、自由貿易を否定する根拠になっているのではないでしょうか。
(しかし、現在のアメリカはFRBイエレン議長の適切な金融政策のおかげなのかリーマンショック以来失業率は確実に低下傾向にあると思うんですけど、トランプはそれについてはどう考えているんでしょうかねえ。)
4.経済学では数学モデルが真理で現実の方が間違っていると考えがちである!
今回のエコノミストにあった文章、まさに「わが意を得たり!」と思えました。これに続けて、「そのような考えは「信仰」であって科学ではない。(中略)数学モデルなど実験結果を説明するための道具でしかない」そのとおりですよ。ちなみに、現役大学生であるリケジョの娘に、「数学理論と現実が違っている場合どちらが正しいと思う?」と聞いて見たところ、しばらく考えた後に「現実!」という答え。
「だって、理論って現実を説明するだけものでしょ!」(す、すげえ!汗)とりあえず、現在の学校教育は間違っていないとひと安心。
常識的に考えても、すべての国が完全雇用状態にあるなんてありえませんよね。一国でもケインズの言う「非自発的失業」の発生している国があれば、その労働者は完全雇用を達成している他の国へ国境を越えて移動するわけです。EUの中でも率業率の低いドイツや英国などの現実はそうなっており、今回のブレグジットの発端になったわけです。(その辺は、今回のエコノミストにも「世界経済の政治的トリレンマ」として説明がありますが、理系出身の私にはちょっと難しい。)
結局、現実の問題を見ると、「ある一定の条件を前提とする箱庭経済学の理論は現実とは異なる、という理論は正しい!」という、
逆説的な経済学のおもしろさに惹かれることになるんですよね。おもしろいと思いませんか?
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