【経済学/直前期対策】2色ボールペンで攻略するゲーム理論+「市場の失敗」3題 by しばちん
読者のみなさん、こんにちは。
タキプロ14期のしばちんと申します。
今回は目前に迫った1次試験対策特集ということで、試験の1日目、しかも最初の科目となる「経済学・経済政策」を取り上げます。
経済学と言えば「IS-LM分析」のようなグラフ問題に苦手意識を持っている方も多いと思いますが、一方でグラフの理解無しで得点できるテーマも結構あり、それらでコツコツ得点を積み上げていくことが地味に重要です。
今回は直前期の限られた時間での得点UPを目指して、
◇グラフの理解が必要無い
◇独立性が高くさかのぼって復習する必要が無い
◇そこそこの頻度で出題される
◇統計数字や公式の暗記の必要がない
そういったテーマに絞り、テキストとは違う視点から解説してみました。
経済学での足切り回避したい方、高得点を狙いたい方、両方にとって役立つ内容になっているハズです。
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目次
■プロフィール
◇ハンドルネーム:しばちん
◇年代・性別:50代・男性
◇職種:広告代理店勤務
◇受験歴:1次2回、2次4回
◇勉強に費やした時間:今となってはもう分かりません。
◇得意科目:事例Ⅱ、企業経営理論
◇苦手科目:経営情報システム
◇保有資格:行政書士・宅地建物取引士
ちなみに、私は大学は経済学部卒業です。
では経済学が好きなのかと言えば、はっきり言って嫌いです。
しかし、経済学とは、変なグラフが色々出てくる面倒な科目ではあるが、頑張れば単位は取れるということを経験済みだったことは今思えば意義がありました。
診断士受験で初めて勉強する羽目になった方にとって、経済学は非常にとっつきにくい科目かと思いますが、このブログを役立てて何とか乗り切って頂ければと思います。
■グラフ理解無しで得点できる!経済学の4つのテーマ
さて、今回取り扱うのは
◇ゲーム理論
◇比較優位
◇公共財
◇情報の非対称性
以上4つのテーマ。
これらは自由競争による市場原理が上手く働かないケースとして、テキストでは「不完全競争市場」または「市場の失敗」といったテーマで同じ章にまとめられていることが多いと思います。
今回調べてみたところ、過去10年での出題頻度はこんな感じでした。
ということで、この中でぶっちぎりで出題頻度が高い「ゲーム理論」に重点をおいて解説を進めます。
過去問についてはこちらからダウンロードできます。
正解についてはちょっと手間ですがこちらから辿っていくと各年分を確認できます。
なお基本的な用語の解説から始めると記事が長くなり過ぎるので、直前期ということもあり、皆さんが一通りはテキストを読んでいる前提とさせて頂きます。
■2色ボールペンで攻略する「ゲーム理論」
まずはゲーム理論です。
ゲーム理論は経済学の試験終盤で出題される傾向があります。警戒すべきは問題そのものの難易度よりも、残り時間が少ない中であせって情報整理を間違えてしまうことです。そういったミスを減らしていくために、今回紹介するやり方を活用して頂ければと思います。
まずは2色ボールペンまたはそれに代わるものを用意してください。
ちなみに1次試験案内(令和5年度)によると、試験本番では「定規、マーカー・色鉛筆を使用しても構いません」となっています。
さて、ゲーム理論といえば「ペイオフマトリクス」という、おおげさな名前の表です。今回は下記ペイオフマトリクスを説明に使います。
なお、
これ以降に出てくるペイオフマトリクス全てに共通で各マスの、
左側の数字がA国の利得、
右側の数字がB国の利得で、
数字が大きい方が自国にとって有利になるという前提です。
まずはA国にとって有利な戦略を考えてみる
さっそくですが作業を開始します。
まず、
A国にとって
B国がX戦略を採用した場合に
自国が有利になる戦略(①②で左側の数字が大きい方)に赤丸を入れます。
同様に、
A国にとって
B国がY戦略を採用した場合に
自国が有利になる戦略(③④で左側の数字が大きい方)に赤丸を入れます。
はい、赤丸が横一列に並びました。
これでA国にとっては、B国の戦略がXだろうがYだろうが自国はY戦略を採用した方が得、ということになります。相手の戦略に関わらず最適となる1つの戦略、つまりこれがA国にとっての「支配戦略」です。
逆に言えば
こうなったり、
こんな感じで、赤丸が一列に並ばない場合は、A国にとって支配戦略が無いということになります。
次にB国にとって有利な戦略を考えてみる
今度はB国にとって
A国がX戦略、Y戦略をそれぞれ採用した場合に
自国が有利になる戦略に青丸をまとめて入れます。
(①③で数字が大きい方と、②④で数字が大きい方)
今度は青丸が縦一列に並びました。つまりB国にとってもY戦略が「支配戦略」ということになります。
なお、先ほどと同様にこんな感じで
青丸が一列に並ばない場合は支配戦略が無いということになります。
つまり、赤青ともに同じ色の丸が一列に並ぶかどうかにより支配戦略の有無を確認する訳です。
まとめてみると分かる「ナッシュ均衡」
ここまでのA国・B国の戦略をまとめるとこうなります。
④のマスで赤丸・青丸が仲良く並んでいます。
これがすなわち「ナッシュ均衡」です。
ナッシュ均衡の定義は「どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせ」(ウイキペディアより)とのことです。ただ、そんな面倒くさい定義を覚えるのも、また試験本番中に思い出すのも大変ですので、診断士受験のレベルであれば「赤丸・青丸が同じマスに仲良く並んだらナッシュ均衡」という浅はかな(?)理解で乗り切ってしまった方が現実的です。
なおナッシュ均衡について理解を深めたいという方はウィキペディアを見れば診断士テキストよりも詳しい内容が載っています(プレーヤーが3人の場合など)。が、暇つぶし程度の気持ちで読める内容ではないので、読むのは合格後にした方が良さそうです。
難しい過去問にチャレンジ!
ゲーム理論に限らず、受験生にとって真の実力が問われるのは変則的な出題がされた場合です。ピンチであると同時に、それは他の受験生ができない問題を自分が正解することによって、アドバンテージを得られるチャンスでもあります。
ということで平成29年 第17問に挑戦してみます。
個人的には、おそらく過去10年のゲーム理論の問題で最も難しい問題かと思います。
日本は諸外国に比べて労働時間が長いため、休日の過ごし方が重要である。ある共働きの夫婦について休日の過ごし方を考える。
夫の趣味は水泳であり、妻の趣味はジョギングである。2人とも自分の好きなことに付き合って欲しいので、基本的には、別々の行動はとりたくない。
下表の利得マトリックスは、夫婦の戦略(水泳とジョギング)とそれにより得られる利得を示したものである。
カッコ内の左側が夫の利得、右側が妻の利得である。このゲームに関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
下線は私が加えました。ここが変則要因となります。つまり、この夫婦は趣味が異なるのに一緒に行動しないと満足度が下がるという、困った人たちです。
所与のペイオフマトリクスはこんな感じです。
そして選択肢は以下の通りです。
a このゲームには、支配戦略がある。
b 夫と妻がともに水泳をするとき、夫と妻のどちらかが戦略を変えると、戦略を変えた方の利得が下がるので、(水泳,水泳)はナッシュ均衡である。
c 夫と妻がそれぞれ自分の趣味を選ぶとき、夫と妻のどちらかが戦略を変えると、戦略を変えた方の利得が下がるので、(水泳,ジョギング)はナッシュ均衡である。
d 夫の戦略としては、妻がジョギングがよいといえばジョギングに行くのがよく、また、水泳がよいといえば水泳に行くのがよい。
【解答群】
ア aとb
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
残り少ない時間の中で「この場合の支配戦略って何だっけ?」と考えるのはかなり大変なはずです。だからこそ、やるべきことは考えることではなく淡々と丸を打つこと。
すると一目瞭然、
◇夫婦それぞれ支配戦略を持たない
(赤丸・青丸の両方とも一列に並ばない)
◇ナッシュ均衡は2つある(①と④)
ということが丸わかりです。
これが理解できれば bとd が正しく、正解の選択肢は エ であることが分かります。
試験本番に向けての+α
ここまでを理解しておけばゲーム理論の問題は完璧!と言いたいところですが、実際にはもう少し意味を押さえておくべき用語があります。
皆さんが「あの時、あの用語が分からなかったせいで正解できなかった!」となることを少しでも防ぐために、関連用語を整理しておきます。
その① ナッシュ均衡とパレート最適
その② 繰り返しゲームでの戦略
企業A・Bが競合であるとして、それぞれ高値路線と値下路線があった場合のペイオフマトリクスです。
ここで企業Aがさらなる値下げ攻勢をかけることで市場シェア獲得を狙ったとします。
てな感じで、お互いにトリガー戦略による報復合戦を繰り返した結果、最後には協力関係(談合)に至るはずだ、と考えるのがフォーク定理です。
こうして①のマスに落ち着くことにより利得が増えます。
(ただし両社とも高値販売を行うことにより、消費者の利益をないがしろにしているという問題は残ります)
ここで一度ウィキペディアを見ると、フォーク定理とは「ゲーム理論において、無限回の繰り返し囚人のジレンマ・ゲームにおいて、協力解が均衡解として成立するという理論」だそうです。
ただ、ここでも定義を正確に覚えようとして記憶がパンクするくらいなら
フォーク定理=繰り返しゲームでは協力関係が成り立つ(という理論)
これだけをちゃんと定着させておいた方が役に立つはずです。
経済学の問題では文章が抽象で分かりづらいことが多いですが、もっともらしい事が書いてあっても繰り返しゲーム(継続的な競争だったり、取引だったり)でなければフォーク定理は当てはまらないことを覚えておきましょう。
ちなみに平成26年 第22問は上記の知識だけで選択肢ア・ウ・エを自信を持って切ることができるので、楽々と正解イに辿り着くことができます。
今回メインとなるゲーム理論の解説はここまでです。
■最悪の事態を回避するための「比較優位論」
さて貴方はある製造メーカーの社長です。
これからAさんとBさんの2人の管理職の人事を決定するとします。
今、本社での財務と工場での運営管理の2つのポストがあり、両方とも不可欠な役職で、各仕事はまるっと1人分の労力を必要とします。
AさんとBさんの診断士1次試験の成績は下記の通りで、これを根拠とした比較優位により担当を決めるとします。
Aさん 財務100点、運営管理90点
Bさん 財務40点、運営管理30点
問題:
AさんBさんそれぞれにどちらの仕事を担当してもらうのが良いでしょうか?
なお、この判断を誤ると
本社では経理の不手際により多額の損失が、
工場では原因不明の大爆発が、
それぞれ発生するものとします。
↑ 工場スタッフの命運は貴方の判断に委ねられた!
正解: Aさんが運営管理、Bさんが財務を担当
解説:
財務の点数を基準の「1」として、「比較優位」を出してみると
・Aさん 財務1 運営管理0.9
・Bさん 財務1 運営管理0.75
今度は反対に
運営管理の点数を基準の「1」として、「比較優位」を出してみると
・Aさん 財務1.1 運営管理1
・Bさん 財務1.3 運営管理1
ということで、財務はBさんに、運営管理はAさんに比較優位があります。
足切りギリギリの成績であるBさんに財務をやってもらうのは会社としては不安極まりないものの、それでも運営管理をやらせて工場が爆発するよりは相対的にマシなので上記の結論となります。
なお、成績の「絶対優位」は2科目ともAさんにありますので、従業員を好きなだけ残業させて良いなら財務も運営管理もAさんにやらせれば良いことになります。ただ、それによって会社に嫌気がさしたAさんが辞職してしまうと、財務も運営管理もBさんがやるという誰にとっても最悪の事態となるので、なるべくそれは回避したいところです。
以上のように、与えられた条件下でどっちがマシな選択かを大真面目に考えるのが比較優位論です。
試験本番に向けての+α
まず重要なのが、問題文や選択肢に含まれる、比較、相対、絶対の3つのキーワードを見落とさないこと。(これらキーワードを丸で囲むなど、しっかりチェック!)
それに加えて
このように、過去問においても表のタテヨコが統一されていないため注意が必要なことです。
私の場合は令和4年度 第18問の形(生産者がタテに、生産物がヨコに並ぶ)が分かりやすかったので、平成29年 第20問のような出題の場合は手書きで表を書き直してから考えていました。
手間がひとつ増えますが、面倒くさがって取りこぼすよりずっと良いと思います。
■アニメの視聴方法で考える「公共財」
貴方がアニメ「鬼滅の刃」を観たいとします。(別に「推しの子」でもいいです)
これをどう視聴(入手)するかにより、「公共財」および「競争性」「排除性」の性質を考えてみます。
■地上波放送の「鬼滅の刃」 →公共財
・非排除性:無料で見れる
・非競争性:Aさんが見たら、Bさんが見れなくなるということはない
■Netflix配信の「鬼滅の刃」 →クラブ財
・排除性:会員登録しないと見れない
・非競争性:(会員登録さえすれば)Aさんが見たら、Bさんが見れなくなるということはない
■道端に落ちているDVD →コモンプール財(共有資源)
・非排除性:誰でも拾える
・競争性:有限なので、先に拾ったもん勝ち
■Amazonで購入したDVD →私的財
・排除性:買った以上は自分のもの
・競争性:しかしジャイアンに奪われたら、のび太は見られない
上記について、著作権の関係とか、地上波でもNHKは有料じゃないかとか、落とし物は警察に届け出ないとダメじゃないかとか、ここではそういう細かいことは無視するものとします。
フリーライダー(ただ乗り)問題が発生するのは公共財です。上記例の民放TVは広告費で賄われているので良いですが、対価の徴収が難しい(=ただ乗りができてしまう)公共施設や公共サービスを提供する役割は、税金を使うことができる政府や自治体が果たすのが一般的です。
試験本番に向けての+α
公共財関連の過去問ではマグロなど海産資源がよく出てきます。
海産資源は
・有限なので競争性がある
・排除性は無い(特に規制が無い限り)
ということで「コモンプール財」(共有資源)であることを押さえておきましょう。
共有資源を各自好きなだけ取り放題にしてしまうと、資源の枯渇につながってしまいます(共有地の悲劇)。そこで、その防止のために何らかの規制を設ける、つまり排除性を加えることが資源の有効活用につながる場合があります。
■困った人たちとの付き合い方と「情報の非対称性」
取引や契約の一方の当事者には十分な情報があり、もう片方には情報が無い状態を情報の非対称性と呼びます。
これによって引き起こされる2つの事態について、細かい言葉の定義を覚えるよりも、まずは契約(または購入)の前か後かを区別して考えられるようになりましょう。
ついうっかり契約してしまう、逆選択とは?
困った人たち その①
◇ダメ就活生
「あんまりやる気ないけど、中小企業診断士の勉強してることにしたろ!」
◇悪徳中古車業者
「事故歴を隠して中古車売ったろ!」
◇?
「前職をセクハラで首になったけど、しれっと婚活パーティーに参加したろ!」
事前に情報が十分ないために、こういう人たちから物を購入したり、契約(採用・結婚など含む)することを選んでしまうのが「逆選択」(アドバースセレクション)です。また、良いものを選ぶための情報が無いせいで「安かろう、悪かろう」といった劣悪な製品・サービスで溢れかえってしまった市場を「レモン市場」と呼びます。
レモン市場の発生や逆選択をしてしまうリスクは、
・品質表示の法的義務付け
・消費者が第三者機関のお墨付きを見て商品を選ぶ
等により、ある程度は抑制できると考えられます。
契約後に激しく後悔する、モラルハザードとは?
困った人たち その②
◇サボり社員
「正社員になったから生活は安泰や!外回りの途中にネカフェ三昧したろ!」
◇ダメなプロ経営者
「会社資産を売りまくって、見かけだけ利益が上がっているようにしたろ!」
◇走り屋さん
「いい自動車保険に入ったから、遠慮なく峠を攻めたろ!」
こういった困った人たち関わってしまったために、契約後に怠慢や不注意に悩まされるのが「モラルハザード」です。
これを避けるためには
・社員とプロ経営者に対しては、成果報酬制度を取り入れる
・走り屋さんに対しては、事故を起こしたら容赦なく保険料を値上げする
などの措置が考えられます。
今回、試しに「情報の非対称性」を世界一簡単にイラストで表現することに挑戦してみました。気が向いた方は下記イメージを頭の片隅に入れておいてください。
↑ 採用はくれぐれも慎重に。
試験本番に向けての+α
「情報の非対称性」は過去10年間で2回しか出題されていません。
だからといって油断は禁物で、平成25年 第21問ではゲーム理論に関する出題にも関わらず、選択肢ウに「情報の非対称性によるモラルハザード」というワードが出てきます。
いきなり異なるジャンルのワードを選択肢にぶっこまれるとあわててしまうかもしれませんが、「いやいや、この場面では情報の非対称性とか関係無いから」と、心の中でツッコミを入れつつ冷静に選択肢を切れるようになって頂ければと思います。
■おわりに
いかがでしたでしょうか?
今回のブログ全体において、教科書通りの正確な解説にこだわるよりも 1次試験を乗り切るだけならこれでヨシ!という、感覚的な理解につながることを目指してみました。
従いまして、経済学ガチ勢(?)の方から「ゲーム理論の本質はそういうことじゃない!」などの意見がコメント欄に書き込まれたとしても、私としてはスルーする気満々なのでご容赦願います。とにもかくにも、皆さんの1次試験突破に役立ちましたら幸いです。
そして勿論、1次試験を乗り切ったその先には2次試験が控えています。
1次試験の準備がほぼ終わり2次試験の準備を既に始めている方は、私が先に書いた2次試験対策ブログ2件もぜひ読んでみてください。
【事例Ⅰ~Ⅲ対策】50歳から始める、フレームワーク徹底マスター by しばちん From TKPエイジレス
事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲそれぞれの特徴に合わせたフレームワークの考え方や、なぜ多面的な解答が必要なのかを解説しています。
【事例Ⅳ】試行錯誤で挑む、ラスボス攻略 by しばちん
事例Ⅳの特徴の整理から始まって、電卓の効率の良い使い方や、NPV(正味現在価値)の解法まで踏み込んでみました。
それでは皆さんの努力が実を結びますように!
次回はかやのさんの登場です。
お楽しみに!
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