【事例Ⅲ】生産工程をラフに描いて課題を整理 by みっちー

事例Ⅲ

読者のみなさん、こんにちは。
タキプロ13期のみっちーと申します。

私自身も中小企業で製造業に従事しているため、事例Ⅲには親近感があります。試験はあくまで試験なので本業の知識が直接活きることはありませんでしたが、本業で使っている「生産工程を描いて考える」という思考整理の習慣を試験に流用しました。ご参考になれば幸いです。

■自戒も含めた緒言

いまどきは診断士試験の情報もtwitterで収集する時代のようですが、私自身は受験生時代にtwitterはほとんど使っておらず、合格後にタキプロ等の活動に加わる関係上twitterに参入しました。受験関係のアカウントをフォローしてタイムラインを眺めていると、いろいろな学習方法やノウハウに関するアドバイス、励ましの言葉などが奔流のように流れてきますね。

楽しい反面、膨大な情報のうちどれを信用して良いのか迷う受験生も多いだろうなと心配になることもあります。特に公式の模範解答が発表されない2次試験は、本来誰にも答えは分からないため、なおのこと玉石混交のアドバイスが入り乱れるのではないでしょうか。

私の個人的見解としては、合格者のアドバイスは多分に生存者バイアスが含まれており、過度に再現性を期待するのは危険だと思われます。ある合格者の学習方法や答案を真似しても、実は同じ学習方法で落ちた人が何倍もいたのかもしれません。しかし一般的に合格者の方が学習方法の情報発信に積極的なので、同じ学習方法で失敗した方々のケースは見えにくい。

特に多年度生は既に様々な学習方法に手を出しているうえ、何度も受験することによる習熟効果もあると思われるので、結局どの学習方法が最も合格に寄与したのか検証できません。

動画サイトの広告で見かける「このサプリで痩せました」みたいなやつです。ダイエット中の人は複数のダイエット法を同時並行で試していることが多いので、結局どの手法に効果があったのか、別々の手法どうしの交互作用もあったのか、同じ手法で上手くいかなかった人がどれだけいたのかなど、突っ込みだすとキリがありません。

「私は合格年にこのような勉強をしていた」と「私はこの勉強方法のおかげで合格した」の間にはマリアナ海溝よりも深い間隙が横たわっており、さらに「この勉強方法で合格できる」と一般化するに至っては、地球と月ほどの距離があります。このことを肝に銘じつつ、あくまで「私はこうやってました」という事例として本日のノウハウをお届けします。

1次試験レベルの知識に忠実に、設問と与件文を虚心坦懐に読み解き、意味が分かる日本語で答えることがあくまで基本です。テクニック系の話や合格者のアドバイスは、楽しく適量を心がけていきましょう(発信側も受け手側も)。

■工程を描いて考える

事例ⅢのC社は、生産計画や生産工程に問題を抱えているケースがほとんどです。納期に間に合わない、仕掛品や製品在庫の過剰や欠品が生じる、特定の工程がボトルネックになる、不良品が発生しやすく手戻りが多い、などなど。

それらの原因を掘り下げると、生産計画の予測が甘かったり、受注情報が共有できていなかったり、作業員が育成できていなかったり、設備が老朽化して処理能力が落ちていたりといった論点が見えてきます。

以上の問題や論点を視覚的に分かりやすく整理するため、私は問題冊子の隅に工程図をラフに描いていました。具体的手順としては、

①与件文中に登場する工程名(仕込み、加工、検品、梱包など)を、工程順に並べて矢印で結ぶ。
②各工程がどのような問題を抱えているか書き込む。
③ボトルネック(最も処理速度が遅い工程)は設問に深く関係する可能性が高いので、赤枠で囲んで強調する。
④各工程の問題点の背景にどのような原因(育成不足、設備老朽化等)が潜んでいそうか、与件文から読み解けるものを列記する。

工程図をラフに描くことで、視覚的なイメージをつかんで問題点の見落としを防ごう、というアイデアです。

ちなみに、箇条書きだけではなく図にこだわったのは、私の本業での経験も影響しています。私は化学メーカーで研究開発兼生産技術に従事しているので、実験計画を立てたり工場の製造工程をイメージ共有したりする機会がよくあります。そのようなとき、口頭や文章で説明するだけでは製造設備のビジュアルや原料の移送経路、工程間のつながりなどが伝わりにくいので、ホワイトボードやノートにラフな工程図を描くようにしています。この習慣をそのまま試験に流用しました。

■令和3年度の問題でやってみよう

令和3年度事例Ⅲの与件文を読みながら、実際に工程図をラフに描いてみましょう。

①与件文中に登場する工程名を、工程順に並べて矢印で結ぶ。

第9段落より、「裁断、縫製、仕上げ、検品、包装・出荷」の5工程を書き出して矢印で結びます。


②各工程がどのような問題を抱えているか書き込む。

【裁断工程】
機械化されているので、習熟不足のような人に起因する問題はあまりなさそうです。ただし、資材欠品が生じると生産計画変更が必要になります。

【縫製工程】
与件文を読むだけでも現場の修羅場感が伝わってきます。作業割り当てを決める縫製工程リーダーはさぞ大変でしょう。本工程は非常に熟練を要する作業で、しかも自社ブランドの場合は熟練職人が仕上げ工程も兼任し、そのうえ修理作業まで担当するので、非常に負荷が大きくなっています。

【仕上げ工程】
熟練を要する工程であり、自社ブランドの場合は肝心の熟練職人が縫製工程と兼任になるので、縫製工程に次いで負荷が大きそうです。

【検品工程】
特に問題点は明記されていませんが、製品の出来栄えのばらつきが発生した場合に手直しも担当します。

【包装・出荷工程】
特に問題点は明記されていません。

③ボトルネックは設問に深く関係する可能性が高いので、赤枠で囲んで強調する。

縫製工程は第11段落で「最も負荷が大きく時間を要する工程」と明記されていますので、縫製工程がボトルネックでしょう。前工程の裁断工程は機械化されているので、裁断された仕掛品が縫製作業を行う現場にうずたかく積まれているのかな、と想像します。

④各工程の問題点の背景にどのような原因が潜んでいそうか、与件文から読み解けるものを列記する。

【裁断工程】
資材欠品が起きる原因として、以下のものが予想されます。

  • 生産計画を月1で作成しているが、計画立案後も受注内容の変動や割り込みがある。→突然の変更のため資材調達が間に合わない?
  • 見込み生産の受注量予測精度が低い。

【縫製工程】【仕上げ工程】
負荷が大きく時間もかかる原因として、以下のものが予想されます。

  • 縫製が手作業であり、機械化できていない。
  • 縫製工程を担える熟練職人が高齢化しており、若手職人の技術習熟が進んでいない。
  • 自社ブランド製品の場合、熟練職人が仕上げ工程と兼任しているため、熟練職人が縫製工程だけに専念できない(準備段取り作業が発生している可能性もある)。
  • 自社ブランド製品の修理作業も担当しているため、縫製工程だけに専念できない(準備段取り作業が発生している可能性もある)。

この手順で工程図を描くと、工程の全貌を見渡すことができ、各工程とC社が抱える問題点との関連が分かりやすくなります。

実際の試験では、私はこれくらいラフに描いていました。前掲の図よりだいぶ端折っているようですが、与件文の該当段落の横に書き込んだりもしています。

■余談:製造業に従事する者から見た事例Ⅲ

私は本業で中小の化学メーカーに勤務しており、研究開発兼生産技術に従事しています。研究開発といっても、新しい素材を発見して世に出すというよりは、既存製品の品質上の課題を解決したり、より効率的で安全な製法に切り替えたりするための「プロセス開発」と呼ばれる業務がメインです。

要するに「作り方を作る仕事」ですね。

そのため、製造業の運営管理がテーマである事例Ⅲにはとても親近感をおぼえるのですが、では製造業の現場を知っていることで事例Ⅲが有利になったかというと、そんなことはないと思います。

というのも、作っている製品によって品質や製法に関する法規制が異なるので、私が本業で得た知識や経験は必ずしも事例ⅢのC社にあてはまりませんでした。

たとえば私の勤務先では医薬品に使われる成分も扱っているのですが、医薬品原料の取り扱いや製法、品質保証体制などは薬機法やGMP省令に準拠しなければならず、やれECRSだトヨタ式だといって簡単に製法を変えるわけにもいきません。医薬品という製品の特性上、製法や原料を変えたことで成分組成が変わってしまったり、効率化だといって複数品目を並行して作った結果コンタミやラベル貼り間違えが起きたりすると、人命が失われるおそれもあります。

このような製造業の実情を知っているがゆえに、診断士試験の事例Ⅲで提言する改善策には少々納得できない点もあります。あくまで事例ⅢのC社は試験のために作られた設定であって、問題点や課題を指摘しやすいようにアレンジされたものと割り切って、あまり本業の経験に引っ張られずに冷静に解くようにしていました。

裏を返せば、製造業の現場を経験していなくても事例Ⅲには対応できるので、製造業未経験の方にも十分合格の可能性はあります。ただし、診断士になった後で製造業に関係する仕事をするのであれば、製造業の現場や技術用語について継続的に学んでいただきたいと、製造業従事者としては思う次第です。

■おわりに

季節は白露から秋分へと移り、残暑も落ち着いてきました。カラッとした晴天に恵まれやすい時期なので、ときどき空を見上げて息抜きをしてください。なんとなく気分も晴れやかになるかもしれません。

次回はyoshioさんの登場です。
お楽しみに!

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