口述試験のための事例企業まとめ Byかものしか
読者の皆さま、まいど(おはようございます+こんにちは+こんばんは)。
タキプロ14期の かものしか と申します。
元日の地震で被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。
この記事が公開される令和6年1月13日は2次口述試験まであと8日で、筆記試験に合格された方は既に口述試験対策に取り組まれていると思います。
今回は、口述試験を受ける資格を得た方のために、私なりの口述試験対策について書かせていただきます。
タキプロ口述試験対策セミナー
!!満員御礼!!
申込者多数のため受付を終了いたしました。沢山の参加申し込みを頂きありがとうございました。
目次
■はじめに
私は昨年度(令和4年度)の2次筆記試験後、事例Ⅳの不出来により完全に落ちたと思い込んでしまい、年明けの合格発表までの約2か月強の間、合格後の準備を何一つしていませんでした。
そのため、合格発表で自分の2次筆記試験合格が判明した後から、急いで口述試験対策を始めました。
自分が行った口述試験対策のうち、個人的に効果が高かったのは「事例企業のまとめメモの作成」でしたので、主にこの内容について紹介したいと思います。
今回は以下の2部構成でお送りします。
Ⅰ.口述試験とは
Ⅱ.事例企業まとめメモの作成
※記事の内容を読まずに、事例企業まとめメモだけ見たい方は、こちらからダウンロードしてください。
■Ⅰ.口述試験とは
1.口述試験の概要
(1)目的
令和5年度の2次試験のうち口述試験の目的は、試験案内には「中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定すること」と書かれており、筆記試験と共通です。
1.試験の目的および方法 中小企業診断士試験は、「中小企業支援法」 第12条に基づき実施されます。 第2次試験は、「中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則」 に基づき、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定することを目的とし、中小企業の診断及び助言に関する実務の事例並びに助言に関する能力について、短答式又は論文式による筆記及び口述の方法により行います。 (1)筆記試験:中小企業の診断及び助言に関する実務の事例について、筆記の方法により実施します。 (2)口述試験:筆記試験において相当の成績を修めた方を対象に、口述の方法により実施します。 |
(2)実施方法等
口述試験の実施方法等は、試験案内によると以下のとおりとなっています。
■試験案内からの抜粋
・中小企業の診断及び助言に関する能力について、筆記試験の事例などをもとに、個人ごとに面接の方法により行います。
・試験会場、集合時間、試験開始時間は、口述試験案内で個別に通知します。時間の変更はできません。
・1人当たりの試験時間は、約10分間です。
・口述試験を受ける資格は、当該年度のみ有効であり、翌年度に持ち越しすることはできません。
(3)合格基準
口述試験の合格基準は、試験案内によると「口述試験における評定が60%以上であること」となっています。
ただし、口述試験の結果は合否のみが伝えられ、自分の評定(点数)が何%(何点)だったのかは開示されません。
(4)合格率
口述試験の合格率は、直近15年間(平成20年度~令和4年度)で全て99%以上となっており、基本的に、当日試験を受けることができればほぼ合格できると思います。
2.口述試験を行う意味
なぜ、ほぼ全員が合格するにもかかわらず、口述試験を行うのでしょうか?
あくまで私の想像ですが、口述試験とは、筆記試験合格者に対して、中小企業診断士にはペーパーテストの能力だけでなく人と人とのコミュニケーションの能力が必要であることを伝えることで、中小企業診断士登録に向けたオリエンテーションの意味を持たせているのではないかと思っています。
口述試験の受験に際しては、単に合格すればよいと考えるだけでなく、合格後の中小企業診断士としての活動も意識しながら受験した方がよいと思います。
3.私が行った口述試験対策
私が昨年、合格発表から試験当日までの10日間で行った口述試験対策は主に以下の3つです。
①口述試験対策セミナーに参加する
②事例企業の内容を頭に入れる
③2分間で話す練習をする
(1)口述試験対策セミナーに参加する
私は昨年、タキプロの口述試験対策セミナーに参加しました。
この記事の公開時点では、受験支援団体の口述セミナーのほとんどが受付終了になっていると思いますが、恐らくは、我がタキプロの口述セミナーはまだ受付中だと思います。
他の団体の口述セミナーに申し込めなかった人は、ぜひともタキプロの口述セミナーに参加してみてください。
口述試験対策セミナーに参加するメリットは、以下の2つだと思います。
①自分の受け答えに対して主催側からフィードバックを得ることで、本番に向けて何に気を付ければよいか気付くこと
昨年私が受けたタキプロのセミナーでは、以下のようなフィードバックを頂きました。
・言葉遣いが話し言葉だったのが気になった。例えば「自分らは‥」と言っていたが、口述試験では「自社は‥」みたいな言葉遣いにした方がよい
・早口なので1分半ぐらいで話が終わってしまった。もっとゆっくり話せばちょうど2分ぐらいになる
②他の口述試験受験生の受け答えを見聞きして参考にできること
本番の口述試験は受験生1人と試験官2人で行われるので、他の受験生の受け答えを横で聞くことはできません。
一方、口述試験セミナーでは他の受験生の受け答えを傍聴して参考にすることが可能です。
昨年私が受けたタキプロのセミナーでは、私を含めて受験生4人のグループで順番に模擬面接を受けました。
私以外の3人は皆平成生まれの若くて優秀な方々で、受け答えの内容や時間配分もしっかりしており、自分がいかに準備不足であるか気付くことができました。
(2)事例企業の内容を頭に入れる
口述試験では、筆記試験で出題された事例企業4社のうち2社について質問され、試験中には資料を見ることができないため、事例企業に関する情報を頭に叩き込んでおく必要があります。
昨年の私の場合、事例企業のインプット手段として行ったのが以下の3つです。
①事例企業まとめメモを作成する
②タキプロの口述セミナーで貰った想定問答を使って勉強する
③Youtubeの筆記試験与件文読み上げ動画を視聴する
この3つの中で、短期間で口述試験対策を行った私にとって一番役に立ったのは、①の「事例企業まとめメモを作成する」でした。
事例企業まとめメモとは、筆記試験の事例企業(A社、B社、C社、D社の全4社)に関する情報を1社あたりA4用紙1枚程度にまとめることで、事例企業に関する情報を覚えやすくするための自作資料です。
事例企業まとめメモを作成するメリットは以下の2つです
①筆記試験の与件文は長くて情報が整理されていないので、与件文の内容を整理することで要点を理解しやすくなること
②自分で事例の情報をまとめることで、単なる暗記ではなく事例企業の状況や課題を体系的に把握でき、質問に対して体系的に解答しやすくなること
(3)2分間で話す練習をする
口述試験では、受験生1人あたり10分間で4問の質疑が行われますので、1問あたり2分程度で解答するのが望ましいです。
そのため、2分間で解答する場合の話のボリュームや間について、予め時間を測りながら練習して感覚を掴んでおくことがお勧めです。
なお、受験票にも書いてあると思いますが、口述試験では時計の使用が許可されています。
私が昨年大阪地区で受験した際は、椅子の前に飛沫防止用パネルを置くための机があったので、その机に腕時計を置いて、試験官と腕時計が同時に視界に入る状態で受験しました。
ただし、同じく昨年口述試験を受験されたしばちんさんの記事によると、昨年の名古屋地区では受験生の椅子の前に机が無かったみたいです。
【口述試験対策】最後の切り札付き!まる分かりガイド byしばちん
また、今年は新型コロナウィルス感染症が5類に移行していることも含めて考えると、原則として口述試験時には目の前に机が無いと思って対策する必要があると思います。
あまり格好良くはありませんが、どうしても2分間の感覚が掴めない場合は、解答の節目節目で腕時計をチラ見して残り時間を確認する練習をしておくのもありだと思います。
■Ⅱ.事例企業まとめメモの作成
1.事例企業まとめメモの具体例
具体例として、私が作成した令和5年度の事例企業まとめメモをアップロードしています。
基本的にご自分でオリジナルのメモを作成されることをお勧めしますが、時間の無い方はご参考としてダウンロードしていただければ幸いです。
2.A社(事例Ⅰ)のまとめ例
2-1.試験問題(事例Ⅰ)の概要
(1)与件文
・文字数:約3220文字
・段落数:13
・各段落の概要
段落 | 内容の概要 |
1 | 業種・資本金・従業員数、1960年代後半の先代経営者による創業 |
2 | 創業以降の客数増加とメニュー増加 |
3 | 1980年代以降の売上高増加および店舗規模拡大 |
4 | 1990年代半ば以降の売上高低下およびサービス低下 |
5 | 2000年代初頭の現経営者入社後の売上高拡大施策 |
6 | 第5段落の施策による問題点 |
7 | 2010年に現経営者へ引き継がれた後の経営方針 |
8 | 社内の体制 |
9 | コロナ禍以降の状況と課題 |
10 | X社との経営統合 |
11 | X社(資本金・従業員数、事業の概要、社内の体制) |
12 | X社(10年前の駅構内商業ビル建設後の状況) |
13 | X社(近年の状況) |
(2)設問文
・設問数:5(《診断》:2+【助言】:3)
・各設問の内容
第1問《診断》 統合前のA社における①強みと②弱みについて、それぞれ30字以内で述べよ。 |
第2問《診断》 A社の現経営者は、先代経営者と比べてどのような戦略上の差別化を行ってきたか、かつその狙いは何か。100字以内で述べよ。 |
第3問【助言】 A社経営者は、経営統合に先立って、X社のどのような点に留意するべきか。100字以内で助言せよ。 |
第4問 A社とX社の経営統合過程のマネジメントについて、以下の設問に答えよ。 (設問1)【助言】 どのように組織の統合を進めていくべきか。80字以内で助言せよ。 (設問2)【助言】 今後、どのような事業を展開していくべきか。競争戦略や成長戦略の観点から100字以内で助言せよ。 |
2-2.口述試験で問われる事項
A社に関する質問では、主に以下の事項が問われると思います。
①A社の経営戦略に関する事項(X社との経営統合後の事業展開など)
②A社が経営戦略を実現するための、人事や組織に関する事項
2-3.A社の情報のまとめ
(1)業種
A社は蕎麦店を営業しているため、総務省の日本標準産業分類(中分類)では飲食店に分類されると思います。
大分類 | M 宿泊業,飲食サービス業 |
中分類 | 76 飲食店 |
小分類 | 763 そば・うどん店 |
細分類 | 7631 そば・うどん店 |
中小企業基本法上では飲食店は「小売業」に分類されます。
(2)資本金・従業員数
A社の資本金と従業員数は与件文第1段落に記載されています。
資本金 | 1千万円 |
従業員数 | 15名(正社員5名、アルバイト10名) |
資本金(小売業:5千万円以下)、従業員数(小売業:50人以下)ともに中小企業者の定義を満たしています。
従業員数は小規模事業者の定義(小売業:5人以下)を満たしていません。
(3)現在の組織
A社(事例Ⅰ)では人事・組織について問われますので、組織についても意識します。
与件文第8段落の内容から、A社の組織体制のイメージは次の図のようになると思います。
一方、X社の組織体制のイメージは、与件文第11段落の内容から次の図のようになると思います。
A社とX社の組織体制を比較すると、A社の方が従業員への権限委譲が進んでいます。
A社は、サービスの質を高めて差別化を行うために従業員への権限委譲を行っており、一方X社は顧客回転率を重視しているために権限委譲を行っていないと思います。
(4)創業から現在までの事業展開
年代 | 事業展開 |
1960年代後半 | ●第1段落 ・先代経営者により開業 ●第2段落 ・コシの強い蕎麦が人気を博した ・出前中心の営業を展開 ・多少離れていてもマイカーで来店する顧客も年々増え始め ・蕎麦店の範疇を超えたメニューでまちの食堂的な役割を担う |
1980年代 | ●第3段落 ・地域人口が増えるに従って、来店客、出前の件数ともに増加 |
1980年代末 | ●第3段落 ・売上高が1億円に達する |
1990年代半ば | ●第4段落 ・競合が多数現れ、売上高の大半を占める昼食需要が奪われる ・バブル経済崩壊とも重なって、売上高が前年を下回る ・重要な役割を担う正社員の離職も相次いだ ・サービスの質の低下 |
2000年代初頭 | ●第5段落 ・現経営者が入社 ・売上高が5千万円にまで低下 ・売上高拡大のためのさまざまな施策を行う ・総花的なメニューを見直して蕎麦に資源を集中 ・出前をやめて来店のみの経営とする ●第6段落 ・2005年までに売上高は7千万円にまで改善 ・従業員の業務負荷が高まり、離職率が高くなった ・新規メニューの開発力も弱く ・効率重視で、接客サービスが粗雑なことが課題 |
2010年代 | ●第7段落 ・先代が経営から離れ、現経営者に引き継がれる ・経営方針を見直して、メインの客層を地元のファミリー層に絞り込んだ ・使用する原材料も厳選して、以前よりも価格を引き上げた ・看板となるオリジナルメニューを開発 ・商品とサービスの質を高めることで、近隣の競合する外食店との差別化を行った ●第8段落 ・正社員を増やして育成を行い、仕事を任せていった ・現経営者に引き継がれてから5年間は前年度の売上高を上回る |
2015年以降 | ●第8段落 ・安定的に利益を確保できる体制となった ●第9段落 ・コロナ禍においては、営業自粛期間に開発した持ち帰り用の半調理製品の販売などでしのいだ ・店舗営業の再開後も、逆に売上高を伸ばすことができた |
2023年 | ●第10段落 ・近隣の蕎麦店X社の経営権を譲り受けることとなった |
(5)今後の事業展開
今後の事業展開についての社長の想いは、第10段落に以下のとおり記載されています。
A社の経営者は、X社との経営統合による新たな展開によって、これまで以上の売上高を期待できるという見通しを持っていた |
(6)強み・経営資源と弱み・問題点(A社)
強み・経営資源 | 【商品とサービス】 ●第7段落 ・使用する原材料を厳選 ・看板となるオリジナルメニューを開発し、近隣の競合する外食店とは異なる、商品とサービスの質を高めることで、差別化を行った 【人と組織】 ●第8段落 ・接客リーダーは、全体を統括する役割を担い、A社経営者からの信任も厚く、将来は自分の店を持ちたいと思っていた ・A社経営者は、接客リーダーとともに会社として目指す方向性を明確にし、目的意識の共有や意思の統一を図るチーム作りを行った ・その結果、チームとして相互に助け合う土壌が生まれ、従業員が定着するようになった ・とりわけ接客においては、自主的に問題点を提起し解決するような風土が醸成されていた |
弱み・問題点 | 【新規顧客の取り込み】 ●第9段落 ・常連である地元の顧客も高齢化し、新たな顧客層の取り込みがますます重要となっていた 【原材料の調達】 ●第7段落 ・近隣の原材料の仕入れ業者の高齢化によって、原材料の仕入れが不安定になり、新たな供給先の確保が必要となりつつある ・原材料の高騰がA社の収益を圧迫する要因となっていた |
(7)強み・経営資源と弱み・問題点(X社)
強み・経営資源 | 【新規顧客の取り込み】 ●第12段落 ・駅前に立地 ●第13段落 ・近年では、地域の食べ歩きを目的とした外国人観光客や若者が増え始めた。とりわけSNSの口コミやグルメアプリを頼りに、公共交通機関を利用する来訪者が目立つようになった 【原材料の調達】 ●第11段落 ・原材料の調達については、X社経営者の個人的なつながりがある中堅の食品卸売業者より仕入れていた ・この食品卸売業者は、地元産の高品質な原材料をも扱う生産者と直接取引をしていた |
弱み・問題点 | 【商品とサービス】 ●第11段落 ・A社よりは客単価を抑えて顧客回転率を高めるオペレーションであったため、接客やサービスは省力化されてきた ●第12段落 ・10年前に駅の構内に建設された商業ビル内に、ファーストフード店やチェーン経営の蕎麦店が進出して競合するようになり、駅前に立地しながらも急速に客足が鈍くなり売上高も減少し始めていた ・駅構内に出店した大手外食チェーンとの価格競争は難しく、商品やサービスの差別化が必要であった 【人と組織】 ●第11段落 ・厨房、接客、管理の従業員(12名(正社員4名、アルバイト8名))は担当業務に専念するのみで横のつながりが少なく、淡々と日々のルーティンをこなしている状況であった ●第12段落 ・営業時間内は厨房も接客もオペレーションに忙殺されることから、仕事がきついことを理由に離職率も高く、常にアルバイトを募集する必要があった ●第13段落 ・買収後の経営統合にともなって、不安になったX社の正社員やアルバイトから退職に関わる相談が出てきている |
2-4.A社の課題と助言
(1)A社のSWOT分析
強み(Strength) | 機会(Opportunity) |
・高品質な商品とサービスによる競合との差別化 ・全体を統括する接客リーダーの存在 ・従業員が定着している ・従業員が自主的に問題点を提起し解決する風土 | ・コロナ禍後の店舗営業の再開 ・X社からの経営権引き継ぎの打診 ・地域の食べ歩きを目的とした外国人観光客や若者の増加 |
弱み(Weakness) | 脅威(Threat) |
・原材料の仕入れが不安定 ・新たな顧客層の取り込み | ・常連である地元の顧客の高齢化 ・原材料仕入れ業者の高齢化 ・原材料価格の高騰 |
(2)X社のSWOT分析
強み(Strength) | 機会(Opportunity) |
・駅前に立地 ・X社経営者と中堅の食品卸売業者との個人的なつながり | ・地域の食べ歩きを目的とした外国人観光客や若者の増加 ・SNSや口コミのグルメアプリを頼りに公共交通機関を利用する来訪者 |
弱み(Weakness) | 脅威(Threat) |
・X社経営者の高齢と後継者不在 ・接客やサービスが省力化されている ・従業員の横のつながりが少ない ・顧客回転率を高めるオペレーションにより仕事がきつく、従業員の離職率が高い ・統合に伴って従業員が不安になっている | ・駅構内に出店した大手外食チェーンとの価格競争 ・コロナ禍の影響による来店客の減少 |
(3)経営統合に先立っての留意点
M&A後の経営統合に係る取組をPMI(Post Merger Integration)といいます。
中小企業庁が令和4年に公表し、令和5年度の1次試験(中小企業経営・政策第13問)にも登場した「中小PMIガイドライン」では、PMIのステップを以下の4つに分けています。
出典:中小PMIガイドライン(中小企業庁)
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005.html
ここでは、ステップ2の「“プレ”PMI」について問われています。
“プレ”PMIでは、譲渡側であるX社の情報を可能な限り取得しておくことが重要です。
本事例では、与件文の第11段落から第13段落までにX社の情報が記載されていますので、これまでの記載から、以下のような点を留意点として助言すればよいと思います。
■留意点の助言例
・仕入先である中堅の食品卸売業者との関係がX社経営者との個人的なつながりによっていること
・A社と較べて従業員への権限委譲が進んでいないこと
・従業員の離職率が高く、育成が進んでいないこと
・統合に伴い従業員が不安に思っていること
(4)どのようにA社とX社の組織の統合を進めていくべきか
中小PMIガイドラインでは、PMIの領域を以下の3つに分けています。
領域 | 項目 | 概要 |
①経営統合 | ●経営の方向性の確立 | 【基礎編】 ●向かう方向性を示す ・譲渡側経営者の退任により失われる「会社のコア」を再構築 【発展編】 ●経営体制の整備 ・譲受側・譲渡側一体での成長に向けた基盤として、経営の方向性、経営体制、経営の仕組みを整備する。 |
②信頼関係構築 | ●関係者との信頼関係の構築 ・譲渡側経営者への対応 ・譲渡側従業員への対応 ・取引先への対応 ・取引先以外の外部関係者への対応 | 【基礎編】 ●強みを発揮できる環境を整える ・譲渡側経営者の退任により遠心力の働く「強みの源泉」を結集 |
③業務統合 | ●事業の円滑な引継ぎ | 【基礎編】 ●実際に事業に取り組む ・M&Aによって生じる「変化」に対応、業務を円滑に引き継ぐ 【発展編:事業機能】 ●シナジー効果等の実現による収益力の向上 ・事業活動における改善・連携を進め、売上・コストシナジーを実現することで収益性を高める。 【発展編:管理機能】 ●事業を支える経営基盤の確立 ・人事・労務、会計・財務、法務、ITシステム等、事業を支える管理機能の改善を進める。 |
ここでは、PMIの3領域のフレームワークを用いて内容を整理のうえ助言してはどうかと考えます。
■どのように組織の統合を進めていくかの助言例
①経営統合
・経営統合後の目指す方向性を明確にする
②信頼関係構築
・X社経営者に目指す方向性を伝えて、経営統合後の協力関係を構築する
・X社従業員に目指す方向性を伝えて、目的意識を共有し、不安を解消する
・X社の取引先である中堅の食品卸売業者に目指す方向性を伝えて、取引先の信頼を得て取引を継続する
③業務統合
・担当を横断する意思疎通が必要な場合の対応体制を構築する
・新たな事業展開やターゲット顧客を明確にしたうえで、店舗オペレーションの改善を行う
・チーム作りを行い、自主的に問題点を解決する風土を醸成する
(5)競争戦略や成長戦略の観点による統合後の事業展開
中小PMIガイドラインでは、M&Aの目的を「持続型」と「成長型」の2つに分類しています。
持続型M&A | 経営不振や後継者不在等の課題をM&Aにより解決し、 企業・事業の存続を維持し、 地域経済や従業員雇用を維持することを目的とする。 |
成長型M&A | シナジーの創出や事業転換により、 企業・事業の成長・発展を目的とする。 |
本事例では、与件文第10段落の内容から、成長型M&Aを目的としているものとして助言を行います。
本事例における成長の方向性は、アンゾフの成長マトリクスにおける「新市場開拓戦略」であると定義します。
すなわち、既存の製品(A社の蕎麦の外食サービス)で新規の市場(地域の食べ歩きを目的とした外国人旅行者や若者)を開拓する戦略です。
PMIガイドラインでは、経営統合によるシナジー効果を「売上シナジー」と「コストシナジー」に分類しています。
売上シナジー | 主に売上拡大につながるシナジー ●経営資源の相互活用 ・クロスセル(既存顧客からの追加的な売上の獲得) ・販売チャネルの拡大 ●経営資源の組合せ ・製品・サービスの高付加価値化 ・新製品・サービスの開発 |
コストシナジー | 売上原価や販管費といったコストの削減につながるシナジー ●売上原価の改善・共通化・統廃合 ●販管費の改善・共通化・統廃合 |
ここでは、新市場開拓戦略を実現するための、経営統合によるシナジー効果獲得の取り組みについて助言してはどうかと考えます。
■競争戦略や成長戦略の観点による統合後の事業戦略の助言例
①成長戦略
・旧X社の駅前立地を生かして、地域の食べ歩きを目的とした外国人旅行者や若者を新規顧客として取り込む
②競争戦略
・A社の高品質な商品やサービスを旧X社店舗でも提供することで、駅構内に出店した大手外食チェーン等の近隣店舗との差別化を行う
③売上シナジー
・旧X社の取引先との関係を継続し、地元産の高品質な原材料を調達することで商品の付加価値を高め、単価および販売数の増加を図る
・既存のA社取引先に加えて旧X社の取引先からも原材料を仕入れることで、原材料の仕入れを安定化させて販売数の増加を図る
・旧X社店舗でもA社の高品質な商品やサービスを提供することで、旧X社店舗における売上増加を図る
3.B社(事例Ⅱ)のまとめ例
3-1.試験問題(事例Ⅱ)の概要
(1)与件文
・文字数:約2990文字
・段落数:22
・各段落の概要
段落 | 内容の概要 |
1 | 業種・資本金・従業員数、取扱商品 |
2 | 立地(最寄駅と駅前の状況) |
3 | 立地(幹線道路、河川敷のスポーツ施設) |
4 | 1955年の先代社長による創業、衣料品店としての加工技術 |
5 | 1970年代初頭の現社長への承継、スポーツ用品店への事業転換 |
6 | 1970~1980年代における野球用品の注文殺到の状況 |
7 | 少年野球チームからの需要取り込みの状況 |
8 | 1990年代におけるサッカー用品の品揃え充実 |
9 | バスケットボール等の球技用品や陸上用品など取扱商品の拡大 |
10 | 2000年代以降における競合の出現とB社の弱み |
11 | 商品構成の見直し(野球用品をより専門的に取り扱っていく) |
12 | B社の強み(少年野球チームからの高い評価) |
13 | 大型スポーツ用品量販店との競争 |
14 | 顧客のニーズ(野球用品購入に関する金銭的負担の軽減) |
15 | 顧客のニーズ(少年野球チームの募集活動、女子軟式野球チームの参加者確保) |
16 | 顧客のニーズ(チームやそのメンバーのデータ管理) |
17 | 今後の事業内容の見直し(ICT企業勤務の社長長男の入社を契機とする) |
18 | 見直し内容①(野球用品の提案力の更なる強化) |
19 | 見直し内容②(より密接なコミュニケーション、新たな販売方法の導入) |
20 | 見直し内容③(女子軟式野球チームの新規顧客開拓) |
21 | 見直し内容④(インターネット活用の見直し) |
22 | 中小企業診断士に助言を求めた目的 |
(2)設問文
・設問数:4(《診断》:1+【助言】:3)
・各設問の内容
第1問《診断》 B社の現状について、3C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)分析の観点から150字以内で述べよ。 |
第2問【助言】 低学年から野球を始めた子どもは、成長やより良い用品への願望によって、ユニフォーム、バット、グラブ、スパイクといった野球用品を何度か買い替えることになるため、金銭的負担を減らしたいという保護者のニーズが存在する。 B社は、こうしたニーズにどのような販売方法で対応すべきか、プライシングの新しい流れを考慮して、100字以内で助言せよ(ただし、割賦販売による取得は除く)。 |
第3問【助言】 女子の軟式野球チームはメンバーの獲得に苦しんでいる。B社はメンバーの増員のために協力することになった。そのためにB社が取るべきプロモーションやイベントについて、100字以内で助言せよ。 |
第4問【助言】 B社社長は、長期的な売上げを高めるために、ホームページ、SNS、スマートフォンアプリの開発などによるオンライン・コミュニケーションを活用し、関係性の強化を図ろうと考えている。誰にどのような対応をとるべきか、150字以内で助言せよ。 |
3-2.口述試験で問われる事項
B社に関する質問では、主に以下の事項が問われると思います。
①B社の経営戦略に関する事項
(長期的な売上を高めるために、誰を顧客として、何を提供し、どのように競合と差別化するか)
②B社が経営戦略を実現するためのマーケティングに関する事項
(顧客との関係性を強化し、競合と差別化するための具体的施策について)
3-3.B社の情報のまとめ
(1)業種
B社はスポーツ用品を販売しているため、総務省の日本標準産業分類(中分類)では「その他の小売業」に分類されると思います。
大分類 | I 卸売業、小売業 |
中分類 | 60 その他の小売業 |
小分類 | 607 スポーツ用品・がん具・娯楽用品・楽器小売業 |
細分類 | 6071 スポーツ用品小売業 |
中小企業基本法上では「その他の小売業」は「小売業」に分類されます。
(2)資本金・従業員数
B社の資本金と従業員数は与件文第1段落に記載されています。
資本金 | 5百万円 |
従業員数 | 社長を含めて8名(うちパート3名) |
資本金(小売業:5千万円以下)、従業員数(小売業:50人以下)ともに中小企業者の定義を満たしています。
従業員数は小規模事業者の定義(小売業:従業員5人以下)を満たしていません。
(3)創業から現在までの事業展開
年代 | 事業展開 |
1955年 | ●第4段落 ・衣料品店として、初代社長である現社長の父が開業した |
1960年代 | ●第4段落 ・公立小中学校の体操服や運動靴を納品する業者として指定を受けた |
1970年代初頭 | ●第5段落 ・2代目社長が事業を承継した ・スポーツ用品店に事業転換した |
1970年代から 1980年代まで | ●第6段落 ・4月と5月には新規のユニフォームや野球用品の注文が殺到した ●第7段落 ・各少年野球チームから指定業者となる ・低学年から野球を始めた子どもの成長に伴う買い替え需要を取り込むことに成功 |
1990年代初頭 | ●第8段落 ・サッカー用品の品揃えも充実させ、各少年サッカーチームとも取引を行うように事業の幅を広げていった ●第9段落 ・バスケットボールやバレーボールなどの球技用品、陸上用品などの扱いにも着手し、中学校の部活動にも対応できるように取扱商品を増やしていった |
2000年代 | ●第10段落 ・付近にサッカーやバスケットボール用品の専門店が相次いで開業し、過当競争になった |
数年前 (2020年頃) | ●第10段落 ・自動車で15分ほどの場所に、大型駐車場を備えてチェーン展開をしている大型スポーツ用品量販店が出店した ●第11段落 ・品揃えと提案力に自信のある野球用品をより専門的に取り扱っていくこととした |
(4)今後の事業展開
今後の事業展開についての社長の想いは、与件文第17~21段落の内容から以下のとおりまとめることが可能です。
●第17段落 2代目社長は、ICT企業に勤めている30代の長男がB社を事業承継する決意をして戻ってくるのを機に、次のような事業内容の見直しをすることとした |
■既存顧客(各少年野球チーム)に対する事業展開
見直し内容 | |
誰に | ・(用品に関する買い替えなどの多様なニーズを持つ)各少年野球チーム、およびそのメンバーや保護者 |
何を | ・(子どもたちの体格や技術に応じた)野球用品 |
どのように | ①野球用品の強化をさらに進め、商品カスタマイズの提案力をより強化する ②各少年野球チーム監督とのより密接なコミュニケーションを図り、各チームのデータ管理、メンバーや保護者の要望の情報把握、および相談を受けた際のアドバイスへの対応を進める ③用品に関する買い替えなどの多様なニーズに応えるいくつかの販売方法を導入する ④インターネットの活用を見直し、SNSやスマートフォンアプリの活用も検討する |
効果 | ・大型スポーツ用品量販店との差別化を図る ・顧客との関係性を強化する |
■新規顧客(女子軟式野球チーム)に対する事業展開
見直し内容 | |
誰に | ・(メンバー獲得に苦しんでいる)女子軟式野球チーム、およびそのメンバーや保護者 |
何を | ・(子どもたちの体格や技術に応じた)野球用品 |
どのように | ①女子メンバー獲得に苦しんでいるチームを支援する ②女子向けの野球用品の提案力を高める |
効果 | ・新規顧客としての女子チームを開拓する |
(5)顧客(現状)
各少年野球チーム | ●第12段落 ・古くから取引がある各少年野球チームは、B社の強みを高く評価しており、チームのメンバーや保護者には、引き続きB社からの購入を薦めてくれている ●第15段落 ・野球をやりたいという子どもの確保も各チームの課題となっており、ポスターやチラシに加え、SNSを使った募集活動への対応がある ●第16段落 ・チームやそのメンバーの様々なデータ管理について、例えばスマートフォンを使って何かできないかというニーズがある |
女子軟式野球チーム | ●第15段落 ・女子の軟式野球が盛んになっているものの、まだまだ少ない女子の参加希望者を増やしていくことも課題である ・どのチームも女子のメンバー確保に苦しんでいる |
地域の子供とその保護者 | ●第3段落 ・地域住民の野球熱が高い ●第7段落 ・低学年から野球を始めた子どもは、成長に伴って何度か、ユニフォーム、バット、グラブ、スパイクといった野球用品を買い替えることになる ●第9段落 ・子どもたちのスポーツ活動が多様化してきた ●第13段落 ・保護者から、価格面でのメリットなどを理由に、大型スポーツ量販店で汎用品の個別購入を希望された場合、各チームの監督ともB社で購入することをなかなか強く言えなくなっている ●第14段落 ・成長に伴う買い替えや、より良い用品への買い替えも保護者には金銭的な負担となっていて、買い替えの負担を理由に野球をやめてしまう子どもたちもいる |
(6)競合(現状)
野球以外のスポーツ用品専門店 | ●第10段落 ・2000年代に入ると、付近にサッカーやバスケットボール用品の専門店が相次いで開業し、過当競争になった |
大型スポーツ用品量販店 | ●第10段落 ・数年前には自動車で15分ほどの場所に、大型駐車場を備えてチェーン展開をしている大型スポーツ用品量販店が出店した。その量販店では、かなり低価格で販売されている |
(7)B社の強み・経営資源と弱み・問題点
強み・経営資源 | 【B社の強み(現状)】 ●第4段落 ・公立小中学校の体操服や運動靴を納品する業者として指定を受けた ・体操服に校章をプリントしたり、刺しゅうでネームを入れたりする加工技術を初代社長が身に付けて、この技術が2代目社長にも継承されている ●第12段落 ・各種有名スポーツブランド用品の取り揃え ・ユニフォーム加工技術や納品の確かさ ・オリジナルバッグなどのオリジナル用品への対応力 ・子どもたちの体格や技術に応じた野球用品の提案力 【B社の強み(今後)】 ●第17段落 ・ICT企業に勤めている30代の長男がB社を事業承継する決意をして戻ってくる 【地域の経営資源】 ●第3段落 ・すぐ近くの河川敷がスポーツ施設として整備され、野球場などがある ・近隣の強豪社会人野球チームがここを借りて練習しているということで、地域住民の野球熱が高い |
弱み・問題点 | ●第10段落 ・野球以外のスポーツ用品専門店と比べると、品揃えの点で見劣りがしている ・大型スポーツ用品量販店に価格面で太刀打ちできない ●第21段落 ・現在のインターネット活用は、店舗紹介のホームページを設けている程度である |
3-4.B社の課題と助言
(1)B社のSWOT分析
B社では野球用品へ特化する戦略のため、SWOT分析も野球用品に関する事項のみとします。
強み(Strength) | 機会(Opportunity) |
・公立小中学校の指定業者 ・古くから取引のある各少年野球チームからの高い評価 ・プリントや刺しゅうの加工技術 ・各種有名スポーツブランド用品の取り揃え ・オリジナルバッグなどのオリジナル用品への対応力 ・子どもたちの体格や技術に応じた野球用品の提案力 ・ICT企業に勤めている30代の長男の入社 | ・女子の軟式野球が盛んになってきた |
弱み(Weakness) | 脅威(Threat) |
・インターネットの活用 | ・数年前の大型スポーツ用品量販店の出店 |
(2)野球用品買い替え時の金銭的負担軽減のための販売方法
顧客である野球チームメンバー(子ども)とその保護者のニーズは以下のとおりです。
・小学生低学年から野球を始めた子供は、成長やより良い用品への願望によって、野球用品を何度か買い替えるニーズがある ・野球用品買い替え時に、子供の体格や技術に応じた用品に変えたいというニーズがある ・保護者には、買い替え時に費用が発生するため、金銭的負担を減らしたいというニーズがある |
これらのニーズを満たすための販売方法の要件として、以下の3つが考えられます。
要件1:買い替え時に一時的な費用が発生しないこと
要件2:買い替え回数が多い顧客ほどお得に感じること
要件3:顧客が野球用品を継続的に使用できること
これらの要件を満たす販売方法の案として、以下の3つが考えられます。
案1:サブスクリプション(サブスク)サービス
案2:割賦販売サービス(リボルビング払いを含む)
案3:レンタルサービス
どの案が一番適しているかは、各サービスの料金設定次第のため、確定的なことは言えませんが、以下の理由から、サブスクサービスを助言するのが良いと思います。
理由1:設問文第2問の制約条件として、割賦販売は除くため
理由2:設問文第2問の制約条件としてプライシングの新しい流れを考慮した場合、レンタルサービスは江戸時代から「損料屋」として存在しており、新しい流れではないため
なお、野球用品のサブスクサービスについては、既に千葉県の「超野球専門店CV」でバットのサブスクが提供されています。
https://battersbox.jp/index.html
超野球専門店CVは、TBC受験研究会(早稲田出版)のYoutubeチャンネルでも令和5年度事例Ⅱの出題企業として取り上げられています。
■販売方法の助言例
①誰に
・子供用の野球用品を何度か買い替えたいが金銭的負担を減らしたいニーズを持つ保護者に
②何を
・定額料金で野球用品を交換可能なサブスクリプションサービスを提供する
③どのように
・野球用品の品揃えを充実し、交換時には子供の体格や技術に応じた野球用品を提案する
・新品だけでなく中古品のプランも設定することで、定額料金を抑えたプランも用意する
④効果
・大型スポーツ量販店への顧客流出を防止する
・買い替えの負担を減らすことで子供が野球を継続しやすくし、顧客との関係を維持する
(3)女子軟式野球チームのメンバー獲得協力の施策
現在女子軟式野球チームのメンバーではない子供をメンバーとして獲得するためには、子供およびその保護者に女子軟式野球チームを認知して興味を持ってもらう必要があります。
ここでは、プロモーションの目的が認知、イベントの目的が興味を持ってもらうこととします。
プロモーションやイベントのために利用可能なB社の強みや地域の経営資源は以下のとおりです。
・公立小中学校の指定業者 ・各少年野球チームとの取引 ・子どもたちの体格や技術に応じた野球用品の提案力 ・河川敷の野球場 ・近隣の強豪社会人野球チーム |
■女子軟式野球チームのメンバー獲得協力の施策に関する助言例
①プロモーション
・公立小中学校の指定業者であることを利用して、女子小学生を対象に、小学校にメンバー募集やイベント告知のポスター掲示やチラシ配布を依頼する
・各少年野球メンバーの保護者を対象に、少年野球チームを通じたチラシ配布、B社店舗でのポスター掲示や自社Webサイト・SNSでの案内などの方法で女子軟式野球チームのメンバー募集やイベント告知を行う。当該の保護者に女子小学生の子供がいる場合は直接のターゲットとなる。また、女子小学生の子供がいない保護者についても、野球つながりでの口コミ効果を期待する
②イベント
・河川敷の野球場で、近隣の強豪社会人野球チームのメンバーを招待したうえで、女子軟式野球チーム主催の野球教室を開催する。B社は、その野球教室で子供の体格や技術に応じた野球用品の使用体験を提供することで、女子小学生やその保護者に女子軟式野球への興味を持ってもらう
(4)オンライン・コミュニケーションの活用
オンライン・コミュニケーションの対象は、以下の2つとします
対象1:各少年野球チームの監督
対象2:各少年野球チームのメンバーおよびその保護者
オンライン・コミュニケーションの目的は、以下の4つとします。
目的1:監督とのより密接なコミュニケーション
目的2:メンバーおよび保護者からの要望把握と相談への対応
目的3:チームの成績管理
目的4:メンバー募集活動への対応
オンライン・コミュニケーションの手段として用いるツールは、以下の3つを想定します。
①B社のWebサイト
②SNS
・具体例として、小学生も利用可能なLINEを想定します
③少年野球のスコア管理用アプリ
・具体例として、「スコアラー」「PLAY by TeamHub」「SSK Smart League」などの既存の野球チーム向けスマホアプリを想定します
■オンライン・コミュニケーションの活用に関する助言例
①B社のWebサイト
・野球用品の商品情報を掲載するとともに、オンラインでの商品販売やサブスクリプションサービス受付にも対応する
・各少年野球チームの活動状況やWebサイトへのリンク等を掲載し、各チームのメンバー募集活動に協力する
②SNS
・SNS(具体例として、LINEの友だち機能、グループ機能、オープンチャット機能)を活用し、各チームの監督、メンバー、保護者への情報発信、要望や相談の受付および返信を行う
③少年野球のスコア管理用アプリ
・各少年野球チームのスコア管理のニーズを把握のうえ、各チームのニーズに合ったアプリを選定して導入を提案する
・各チームでのアプリ導入後は、活用方法に関する相談の受付やアドバイスを行う
4.C社(事例Ⅲ)のまとめ例
4-1.試験問題(事例Ⅲ)の概要
(1)与件文
・文字数:約2350文字(図の文字数を除く)
・段落数:15
・図の数:1
・各段落および図の概要
段落 | 内容の概要 |
1 | 【企業概要】業種・資本金・従業員数、組織 |
2 | 【企業概要】事業内容 |
3 | 【企業概要】1990年に現経営者が創業して以降の状況 |
4 | 【企業概要】2020年のコロナ禍以降の状況 |
5 | 【生産の現状】製造部の概要 |
6 | 【生産の現状】工場のレイアウト |
(図)主な総菜のフローダイアグラム | |
7 | 【生産の現状】総菜の製造工程 |
8 | 【生産の現状】製造の概要 |
9 | 【生産の現状】製品仕様の決定とその指示 |
10 | 【生産の現状】製品仕様の文書化 |
11 | 【生産の現状】生産計画の作成、食材・調味料の発注・納品・在庫管理 |
12 | 【生産の現状】販売先への日毎の納品 |
13 | 【新規事業】事業の概要 |
14 | 【新規事業】業務プロセスの概要 |
15 | 【新規事業】生産面の課題 |
(2)設問文
・設問数:5(《診断》:1+【助言】:4)
・各設問の内容
第1問《診断》 C社の生産面の強みを2つ40字以内で述べよ。 |
第2問【助言】 C社の製造部では、コロナ禍で受注量が減少した2020年以降の工場稼働の低下による出勤日数調整の影響で、高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮している。生産面でどのような対応策が必要なのか、100字以内で述べよ。 |
第3問【助言】 C社では、最近の材料価格高騰の影響が大きく、付加価値が高い製品を販売しているものの、収益性の低下が生じている。どのような対応策が必要なのか、120字以内で述べよ。 |
第4問【助言】 C社社長は受注量が低迷した数年前から、既存の販売先との関係を一層密接にするとともに、他のホテルや旅館への販路拡大を図るため、自社企画製品の製造販売を実現したいと思っていた。また、食品スーパーX社との新規事業でも総菜の商品企画が必要となっている。創業から受託品の製造に特化してきたC社は、どのように製品の企画開発を進めるべきなのか、120字以内で述べよ。 |
第5問【助言】 食品スーパーX社と共同で行っている総菜製品の新規事業について、C社社長は現在の生産能力では対応が難しいと考えており、工場敷地内に工場を増築し、専用生産設備を導入し、新規採用者を中心とした生産体制の構築を目指そうとしている。このC社社長の構想について、その妥当性とその理由、またその際の留意点をどのように助言するか、140字以内で述べよ。 |
4-2.口述試験で問われる事項
C社に関する質問では、主に以下の事項が問われると思います。
①C社の経営戦略に関する事項(新規事業、自社企画製品の製造販売)
②C社が経営戦略を実現するための業務プロセス改善について
4-3.C社の情報のまとめ
(1)業種
C社は業務用食品を製造しているため、総務省の日本標準産業分類(中分類)では食料品製造業に分類されると思います。
惣菜とパン・菓子のうち、惣菜が主要な活動の場合の産業分類は以下のとおりになります。
大分類 | E 製造業 |
中分類 | 09 食料品製造業 |
小分類 | 099 その他の食料品製造業 |
細分類 | 0996 そう(惣)菜製造業 |
中小企業基本法上では食料品製造業は「製造業その他」に分類されます。
(2)資本金・従業員数
C社の資本金と従業員数は与件文第1段落に記載されています。
資本金 | 3千万円 |
従業員数 | 60名(うちパート40名) |
資本金(製造業その他:3億円以下)、従業員数(製造業その他:300人以下)ともに中小企業者の定義を満たしています。
従業員数は小規模事業者の定義(製造業その他:従業員20人以下)を満たしていません。
(3)創業から現在までの事業展開
年代 | 事業展開 |
1990年 | ●第3段落 ・現経営者が創業した ・ホテル内レストランメニューの品揃えの支援を行う調理工場を標ぼう ●第2段落 ・温泉リゾート地にある高級ホテルと高級旅館5軒を主な販売先として、販売先料理長を通じて依頼がある和食や洋食の総菜、菓子、パン類などの多品種で少量の食品を受託製造している |
近年 | ●第3段落 ・受注量が年々増加してきた |
2020年 | ●第4段落 ・パンデミックの影響を受け、C社の受注量は激減 |
最近 | ●第4段落 ・新型コロナウイルス感染も落ち着き、受注量も回復 |
(4)今後の事業展開
今後の事業展開についての社長の想いは、与件文および設問文から以下のとおりになると思います。
●第13段落 ・中堅食品スーパーX社と総菜商品の企画開発を共同で行っている ●第14段落 ・C社社長は、この新規事業に積極的に取り組む方針であるが、現在の生産能力では対応が難しく、工場増築などによって生産能力を確保する必要があると考えている ●設問文第4問 ・C社社長は受注量が低迷した数年前から、既存の販売先との関係を一層密接にするとともに、他のホテルや旅館への販路拡大を図るため、自社企画製品の製造販売を実現したいと思っていた |
(5)現在の組織
C社(事例Ⅲ)では業務プロセスについて問われますので、組織についても意識します。 与件文第1段落および第5段落の内容から、C社の組織のイメージは次の図のようになると思います。
(6)既存事業の仕様決定の流れ
C社の業務プロセスのうち、受託製品の仕様決定までの流れは、与件文第9~10段落の内容から以下のとおりまとめることが可能です。
試作時 | ●販売先料理長 ・販売先が季節ごとに計画する料理メニューの中から、販売先料理長がC社へ委託する食品を選定する ・販売先料理長がC社に来社し、食材、使用量、作業手順などの製品仕様を口頭で直接指示する ●工場管理者(製造部長、総菜・菓子製造課長) ・工場管理者は、口頭で指示を受けて試作し、製品仕様を決定する ・製品仕様は、工場管理者が必要によってメモ程度のレシピを作成する |
納入期間中 | ●販売先料理長 ・納入期間中も販売先料理長が来社し、製品の出来栄えのチェックをし、必要があれば食材、製造方法などの変更指示がある ●工場管理者 ・その際には工場管理者が立ち会い、受託製品の製品仕様や変更の確認を行っている ・毎日の生産指示や加工方法の指導などは両課長が加工室で直接行う |
(7)既存事業の受注から納品までの流れ
C社の業務プロセスのうち、既存事業の受注から納品までの流れは、与件文第9~12段落の内容から以下のとおりまとめることが可能です。
月次 | ●営業部 ・受託製品の仕様決定後、営業部が販売先料理長から翌月の月度納品計画を受け、製造部生産管理課に情報を伝達する ●生産管理課 ・生産管理課が月度生産計画を作成し、総菜・菓子製造課長に生産指示する ●総菜・菓子製造課 ・両製造課長は製造日毎の作業計画を作成し各班のパートリーダーに指示する ・各班パートリーダーは月度生産計画に必要な食材・調味料を食品商社へ月末に定期発注する ●食品商社 ・食品商社は、C社の月度生産計画と食材・調味料の消費期限を考慮して納品する ●資材管理課 ・資材管理課は、食材・調味料の受入れと在庫の保管管理を行う |
週次 | ●総菜・菓子製造課(営業部と生産管理課の関与は不明) ・販売先への日毎の納品は週初めに修正し確定する 【新規事業では納品日の2日前に確定する】 |
日次 | ●総菜・菓子製造課、資材管理課 ・製造日に必要な食材や調味料は前日準備する ●総菜・菓子製造課 ・毎日の生産指示や加工方法の指導などは両課長が加工室で直接行う ・朝食用製品は前日午後製造する ・夕食用製品は当日14時までに製造する ●営業部 ・朝食用製品は当日朝納品する ・夕食用製品は当日14時までに納品する 【新規事業では商品の鮮度を保つため最低午前と午後の配送となる】 |
(8)強み・経営資源と弱み・問題点
強み・経営資源 | ●第3段落 ・現経営者は高級ホテルの料理人を経験し、ホテル調理場の作業内容などのマネジメントに熟知している ●第5段落 ・工場管理者はホテルや旅館で料理人の経験がある ●第10段落 ・販売先料理長から口頭で指示される各製品の製品仕様は、工場管理者が必要によってメモ程度のレシピを作成し活用している ●第13段落 ・採用された外部人材は、中堅食品製造業で製品開発の実務や管理の経験がある |
弱み・問題点 (食材等発注プロセス) | 【月次の発注量が週次の納品量確定に対応できておらず、在庫管理もできていない】 ●第11段落 ・パートリーダーは、月度生産計画に必要な食材や調味料の必要量を経験値で見積り、長年取引がある食品商社に月末に定期発注する ・食材や調味料の受入と在庫の保管管理は資材管理課が行っているが、入出庫記録がなく、食材や調味料の在庫量は増える傾向にあり、廃棄も生じる ●第12段落 ・販売先への日ごとの納品は、宿泊予約数の変動によって週初めに修正し確定する ●設問文第3問 ・最近の材料価格高騰の影響が大きく、収益性の低下が生じている 【個別の食材・調味料の納品時期が管理できていない】 ●第11段落 ・食品商社は、C社の月度生産計画と食材や調味料の消費期限を考慮して納品する ・製造日に必要な食材や調味料は前日準備するが、その時点で納品遅れが判明し、販売先に迷惑をかけたこともある |
弱み・問題点 (製造工程プロセス) | ●設問文第2問 ・2020年以降の工場稼働の低下による出勤日数調整の影響で、高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮している ●第7段落 ・受注量が最も多い総菜の製造工程は、前処理、計量・カット、調理があり、鍋やボウル、包丁など汎用調理器具を使って手作業で進められている ●第10段落 ・レシピを作成し活用していたが、整理されずにいる |
4-4.C社の課題と助言
(1)C社のSWOT分析
強み(Strength) | 機会(Opportunity) |
・現経営者の高級ホテル料理人の経験 ・工場管理者のホテルや旅館での料理人経験 ・高級ホテル・旅館からの受託製造製品のレシピの存在 ・採用された外部人材の中堅食品製造業での製品開発経験 | ・コロナ禍後の観光客増加による販売先のホテル・旅館からの受注量回復 ・中堅食品スーパーX社との総菜食品の共同企画開発 |
弱み(Weakness) | 脅威(Threat) |
・食材等の月次の発注量が週次の納品量確定に対応できていない ・食材や調味料の在庫数や納品時期の管理体制ができていない ・高齢のパート従業員退職により最近の受注量増加に苦慮している | ・最近の材料価格高騰 |
(2)既存事業の受注量増加に対する生産面での対応策
生産の4Mのフレームワークを用いて、問題点と対応策を洗い出してみます。
問題点 | 対応策 | |
人 | ・高齢のパート従業員退職により最近の受注量増加に苦慮している | (作業方法の標準化と機械化により対応する) |
材料 | ||
機械 | ・総菜の製造工程が汎用調理器具を使った手作業で進められており機械化されていない | ・前処理や計量・カットなどの製造工程に専用調理器具や自動機器を導入し、製造工程の効率化を図る |
方法 | ・レシピが整理されていない ・工場管理者とパートリーダーがパート従業員に直接作業方法を指導、監督して行っている | ・レシピを整理のうえ作業方法の標準化とマニュアル化を進め、パート作業員の生産性向上を図る |
人に関しては、例えば「パート従業員の正社員登用による作業員の確保と技能向上」のような助言も考えられますが、事例Ⅰで扱う人事施策になるため、C社(事例Ⅲ)への助言として適当でないと思います。この事例では、作業方法の標準化と機械化による生産性向上について助言するのが適当であると思います。
なお、本件の助言として一番難しいのは、現在の顧客別に分かれている総菜製造班ごとの加工室を工程別に再編成するかどうかだと思います。
与件文第6段落に「食品衛生管理上交差汚染を防ぐようゾーニングされている」との記載がありますが、工場レイアウトの検討については、HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)の手順を用いればよいと思います。
HACCPは2021年(令和3年)6月から食品衛生法により全ての食品等事業者に義務付けられています。
HACCPの義務付けの内容は以下の2段階に分かれており、現在のC社は従事者数(食品の製造に従事する従業員数)が48人(50人未満)のため小規模事業者ですが、工場を増築して新規採用を行った後は従事者数50人以上の大規模事業者になる可能性が高く、「HACCPに基づく衛生管理」が義務付けられます。
HACCPに基づく衛生管理 | ・大規模事業者等が義務化の対象 ・コーデックスのHACCP7原則に基づき、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し、管理を行う |
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理 | ・小規模事業者等が義務化の対象 ・各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う |
HACCPの手順は12に分かれており、このうち手順4の「製造工程図を作ろう」以降を参考にします。
出典:食品製造におけるHACCP入門のための手引書(厚生労働省)の図を引用
製造工程図とはフローダイアグラムのことで、要するに事例Ⅲの図「主な総菜のフローダイアグラム」のようなものです。
事例Ⅲの図を例にすると、工程を区域別、食材別に区分したうえで、工場レイアウトにおいて食材の流れや人の動線、水や空調の流れ等において危害要因がないか分析を行い、衛生管理面で最適なレイアウトを決定します。
このような考え方で加工室のレイアウトを検討した場合、業務用の専用設備も工程別(区域別、食材別)に分けて導入する方が衛生管理上望ましいですが、それを5つの総菜班加工室にそれぞれフルセットで導入するのはいかにも非効率だと思います。
ただし、作業方法の標準化とマニュアル化が実現しないまま総菜班加工室の顧客別から工程別への再編成を行うと、現場に混乱が生じて営業に支障する可能性もあるので、設問文第5問との一貫性を持たせた以下のようなストーリーでの助言とします。
①既存事業の受注量増加への対応は、現在の加工室レイアウトのままで行う
②新規事業の工場増築に際して、顧客別ではなく工程別の加工室レイアウトを導入して専用生産設備を効率的に運用する
③将来的に既存事業と新規事業の加工室を統合し、全事業の加工室レイアウトを工程別とする
■既存事業の受注量増加に対する生産面での対応策の助言例
・レシピを整理のうえ作業方法の標準化とマニュアル化を進め、パート作業員の生産性向上を図る
・前処理や計量・カットなどの製造工程に専用調理器具や自動機器を導入し、製造工程の効率化を図る
(3)材料価格高騰による収益性低下への対応策
既存事業の場合、食材や使用量は販売先からの指定であるため、C社で勝手に安い食材に変えたり使用量を減らしたりしてコストダウンすることはできません。
この前提で材料価格高騰への対応策を考えた場合、「製品の売価を上げる」と「食材の原価を下げる」の切り口から案を洗い出してみます。
切り口 | 対応策の方向性 |
製品の売価を上げる | ・販売先へ材料価格高騰に応じた納入価格の値上げ(価格転嫁)を申し入れる |
材料の原価を下げる | ・資材管理課で保管している材料の在庫や廃棄を減らす ・総菜・菓子製造課での製造工程における材料のロスを減らす ・取引先の食品商社へ、納入価格の据え置き・低減を申し入れる ・納入価格の安い新たな取引先を探す |
恐らくは、筆記試験においては与件文第11段落に根拠となる記載があり、また解答文字数に120字以内の制約があるという理由から「資材管理課で保管している食材の在庫や廃棄を減らす」の方向性のみで対応策を回答すればよいと思います。
一方、口述試験においては、中小企業白書2023年版で「価格転嫁」が生産性向上と並ぶキーワードとなっていることから、2分間の持ち時間が許せば「価格転嫁」の方向性で回答しても不合格にはならないと思います。
【中小企業白書2023における価格転嫁に関する記載例】
●Ⅰ-77ページ
大企業(大企業製造業)と中小企業(中小製造業)を比較して見ると、大企業では実質労働生産性や価格転嫁力の寄与により一人当たり名目付加価値額が上昇している一方、中小企業では価格転嫁力の低下が一人当たり名目付加価値額の低下に寄与している。また、中小製造業においては、2019年から2021年において価格転嫁力が低下していることが分かる。 |
●Ⅰ-78ページ
2022年における価格転嫁率(仕入価格の上昇分を販売価格に転嫁できている割合)の状況は、全体コストについては改善しつつあり、中でも原材料費の転嫁率については向上している。一方で、労務費については上昇幅が非常に小さく、エネルギー価格については転嫁率が減少していることが分かる。 |
●Ⅰ-88ページ
価格転嫁率が高い企業ほど、従業員一人当たりの平均賃金改定率も高い傾向にある。今回の調査では一概にいえないものの、賃上げを推進するためには、価格転嫁を進めることが重要であることが示唆される。 |
「資材管理課で保管している食材の在庫や廃棄を減らす」方向性で対応策を考える場合、発注、納品・払出のプロセスに分けて問題点を洗い出してみます。
問題点 | 対応策 | |
発注 | ・各班のパートリーダーが月度生産計画に必要な食材や調味料の必要量を経験値で見積もって発注しているが、在庫量が考慮されていない ・発注が月単位である一方、払出数量の決定が週単位であるため、安全を見込んで過剰に発注されやすい ・食品商社がC社の月度生産計画と食材や調味料の消費期限を考慮して(日々)納品しており、その分の管理コストが価格に上乗せされている可能性がある | ・前提として、C社が材料の消費期限および納品リードタイムを把握のうえ安全在庫量を決定しておく ・材料の発注量を、経験値ではなく工場管理者が作成したレシピと週単位の生産計画に基づき計算することで、発注量の無駄を防ぐ ・材料の発注周期を月単位から週単位に変更し、月度生産計画からの製造量変更に伴う過剰在庫の消費期限切れロスおよび欠品の防止を図る ・発注の担当を資材管理課に変更し、材料のうち、使用期間または消費期限の短いものは定期発注方式、それ以外のものは定量発注方式を採用することで、発注コストの最適化を図る |
納品・払出 | ・資材管理課が入出庫記録を行っていない | ・資材管理課が入出庫記録を行い、在庫量を可視化することで、過剰な発注および廃棄を減らす |
■材料価格高騰による収益性低下への対応策の助言例
①製品の売価を上げる
・販売先へ材料価格高騰に応じた納入価格への転嫁を申し入れる
②食材の原価を下げる
・材料の発注量を、経験値ではなく工場管理者が作成したレシピと週単位の生産計画に基づき計算することで、発注量の無駄を防ぐ
・材料の発注周期を月単位から週単位に変更し、月度生産計画からの製造量変更に伴う過剰在庫の消費期限切れロスおよび欠品の防止を図る
・発注の担当を資材管理課に変更し、材料のうち、使用期間または消費期限の短いものは定期発注方式、それ以外のものは定量発注方式を採用することで、発注コストの最適化を図る
・資材管理課が入出庫記録を行い、在庫量を可視化することで、過剰な発注および廃棄を減らす
(4)製品の企画開発に関する助言
自社企画製品の場合、自社で製品仕様を決める必要があります。
製品仕様決定の流れとして、以下の3つのプロセスを想定します。
①顧客ニーズの把握
②製品コンセプトの決定
③製品仕様(Q:品質、C:原価、D:納期)の決定
本件のC社の場合、既に中堅スーパーX社との共同開発を行っているため、
第1段階:中堅スーパーX社と共同の企画開発
第2段階:既存販売先以外のホテルや旅館向け自社企画製品の開発
の2段階で考えてみます。
■第1段階:中堅スーパーX社と共同の企画開発
この段階では、既に与件文で「顧客ニーズの把握」と「製品コンセプトの決定」について記載されているため、「製品仕様(QCD)の決定」の部分について助言すればよいと思います。
与件文の情報 | 助言内容 | |
顧客ニーズの把握 | ・X社では、各店舗の売上金額は増加しているが、総菜コーナーの売上伸び率が低く、X社店舗のバックヤードでの調理品の他に、中食需要に対応する総菜の商品企画を求めている | |
製品コンセプトの決定 | ・C社では、季節性があり高級感のある和食や洋食の総菜などで、X社の既存の総菜商品との差別化が可能な商品企画を提案している | |
製品仕様(QCD)の決定 | 【C社の強み】 ・工場管理者のホテルや旅館での料理人経験 ・高級ホテル・旅館からの受託製造製品のレシピの存在 ・採用された外部人材の中堅食品製造業での製品開発経験 | ・製品コンセプトに基づき、製品開発部の外部人材の製品開発経験、工場管理者の料理人経験、過去の受託製造製品レシピのノウハウを活用して製品仕様を決定する |
■第2段階:既存販売先以外のホテルや旅館向け自社企画製品の開発
この段階では、「製品仕様の決定」については第1段階のノウハウが活用できるため、「顧客ニーズの把握」と「製品コンセプトの決定」の部分について助言すればよいと思います。
助言内容 | |
顧客ニーズの把握 | ・営業担当がターゲット顧客である新たなホテルや旅館を訪問し、季節ごとの顧客のニーズを把握する (顧客のニーズの例) ①訪日外国人旅行客を集客したい ②首都圏からの観光客を集客したい ③地元の住民を集客したい、等 |
製品コンセプトの決定 | ・営業担当が把握した顧客ニーズに基づき、製品開発部と工場管理者が協力して製品コンセプトを決定する (製品コンセプトの例) ①訪日外国人旅行客向け:地元の高級ブランド食材を使った料理 ②首都圏からの観光客向け:旬の地元名産品を使った料理 ③地元住民向け:地元の嗜好や文化に合わせた季節の料理、等 |
■製品の企画開発に関する助言例
①中堅スーパーX社と共同の企画開発
・X社のニーズに基づき、季節性があり高級感のある和食や洋食の総菜など、X社の既存の総菜商品との差別化が可能な製品コンセプトを提案する
・製品コンセプトに基づき、製品開発部の製品開発経験、現経営者や工場管理者の料理人経験、過去の受託製造製品レシピのノウハウを活用して製品仕様を決定する
②既存販売先以外のホテルや旅館向け自社企画製品の開発
・営業担当がターゲット顧客である新たなホテルや旅館を訪問し、季節ごとの顧客のニーズを把握する
・営業担当が把握した顧客ニーズに基づき、製品開発部と工場管理者が協力して製品コンセプトを決定のうえ、X社との共同の企画開発のノウハウも活用して製品仕様を決定する
(5)新規事業の生産体制構築に関する助言
新規事業として工場を増築し、専用生産設備を導入し、新規採用者を中心とした生産体制の構築について、本来は正味現在価値法や回収期間法などを用いた投資評価が必要となりますが、C社(事例Ⅲ)では業務プロセス改善について問われるため、ここでは投資評価面では問題ないという前提で解答します。
結論から先に言うと、投資評価で問題なければ投資するべき(妥当である)とします。
その理由については、例えば「社長の想い」「販売面」「生産面」の切り口に分けて解答してみます。
理由 | |
社長の想い | ・社長は、既存の販売先との関係を一層密接にするとともに、新規事業に積極的に取り組み、自社企画製品の製造販売を実現したいと考えており、社長の想いと合致しているため |
営業面 | ・X社という新規事業の販売先を既に確保しているため ・既存の販売先からの受注量が増加している中、工場増築により既存事業に影響を与えずに新規事業の立ち上げ・増産が可能となるため |
生産面 | ・新規に工場を増築することで、衛生管理と生産性のレベル向上を図ることができ、将来的には既存事業の加工室との統合も可能であるため |
留意点については、業務プロセスの切り口に分けて解答してみます。
製品仕様決定 | ・レシピを整備して材料使用量と作業手順の標準化を徹底する |
納品数量確定 | ・新規事業での日単位の納品数量確定に対応した材料発注および在庫管理体制を構築する |
製造工程 | ・食品衛生と生産性を徹底した工場レイアウトとし、食品事故および作業ミスを防止する ・新規採用者向けの理解しやすいマニュアルを整備し、教育体制を構築する |
配送 | ・配送の量と頻度の増加に対応した配送体制を構築する |
■新規事業の生産体制構築に関する助言例
・新規事業のための設備投資は妥当である
①理由
・社長の想いと合致しているため
・X社という新規事業の販売先を既に確保しているため
・既存の販売先からの受注量が増加している中、工場増築により既存事業に影響を与えずに新規事業の立ち上げ・増産が可能となるため
・新規に工場を増築することで、衛生管理と生産性のレベル向上を図ることができ、将来的には既存事業の加工室との統合も可能であるため
②留意点
・レシピを整備して材料使用量と作業手順の標準化を徹底する
・新規事業での日単位の納品数量確定に対応した材料発注および在庫管理体制を構築する
・食品衛生と生産性を徹底した工場レイアウトとし、食品事故および作業ミスを防止する
・新規採用者向けの理解しやすいマニュアルを整備し、教育体制を構築する
・配送の量と頻度の増加に対応した配送体制を構築する
5.D社(事例Ⅳ)のまとめ例
5-1.試験問題(事例Ⅳ)の概要
(1)与件文
・文字数:約990文字(表の文字数を除く)
・段落数:8
・表の数:2
・各段落および表の概要
段落 | 内容の概要 |
1 | 業種・資本金・従業員数、事業内容 |
2 | 顧客と販売チャネル |
3 | 直近の業績 |
4 | 主力商品である基礎化粧品の競争激化 |
5 | 新製品の開発・販売の検討 |
6 | 化粧品市場および新製品市場の展望 |
7 | 新製品の自社生産の検討 |
8 | 中小企業診断士への依頼の観点 |
(表)貸借対照表(D社の直近2期分) | |
(表)損益計算書(D社の直近2期分) |
(2)設問文
・設問数:9(《診断》:4+【助言】:5)
・各設問の内容(の概要)
第1問 (設問1)《診断》 D社の2期間の財務諸表を用いた経営分析 (設問2)《診断》 財務指標が悪化した原因の記述 |
第2問 (設問1)《診断》 D社の2期間の財務データを用いたCVP分析 (設問2)【助言】 D社のサプリメント製品別損益計算書を用いた、営業赤字製品(X製品)の販売中止に関する助言 (設問3)【助言】 売上高を基準とした共通費配賦の妥当性に関する助言の記述 |
第3問 男性向けアンチエイジング製品の生産に関わる設備投資の検討 (設問1)【助言】 設備投資の正味現在価値の期待値計算および投資可否の助言 (設問2)【助言】 設備投資を1年遅らせるか否かの意思決定の助言 |
第4問 (設問1)《診断》 OEM生産の財務的利点の記述 (設問2)【助言】 D社が新たな製品分野を開発し販売することの財務的利点の記述 |
5-2.口述試験で問われる事項
D社に関する質問では、主に以下の事項が問われると思います。
①D社の経営戦略に関する事項(OEM生産から自社生産への変更、新製品の開発)
②D社の経営戦略を実現するための財務・会計に関する定性的な事項
口述試験では資料を使わずに口答だけで質問・解答しますので、具体的な数値などの定量的な事項ではなく、利点や留意点などの定性的な事項について問われると思います。
5-3.D社の情報のまとめ
(1)業種
現状のD社は、自社で製造設備を持たずOEMで化粧品を製造しているため、総務省の日本標準産業分類(中分類)ではその他の卸売業に分類されると思います。
大分類 | I 卸売業、小売業 |
中分類 | 55 その他の卸売業 |
小分類 | 552 医薬品・化粧品等卸売業 |
細分類 | 5523 化粧品卸売業 |
中小企業基本法上ではその他の卸売業は「卸売業」に分類されます。
また、新製品の自社生産を開始し、そちらが主たる活動になる場合、日本標準産業分類(中分類)では化学工業に分類されます。
大分類 | E 製造業 |
中分類 | 16 化学工業 |
小分類 | 166 化粧品・歯磨・その他の化粧用調整品製造業 |
細分類 | 1661 仕上用・皮膚用化粧品製造業(香水,オーデコロンを含む) |
中小企業基本法上では化学工業は「製造業」に分類されます。
(2)資本金・従業員数
資本金 | 1億円 |
従業員数 | 31名 |
資本金(卸売業:1億円以下)、従業員数(卸売業:100人以下)ともに中小企業者の定義を満たしています。
従業員数は小規模事業者の定義(卸売業:5人以下)を満たしていません。
(3)創業から現在までの事業展開
年代 | 事業展開 |
2003年 (創業20年) | ●第1段落 ・創業 ・独自開発の原料を配合した基礎化粧品、サプリメントなどの企画・開発・販売を行っており、製品の生産はOEM生産によっている ●第2段落 ・百貨店やドラッグストアなどの取り扱い店に直接製品を卸している ・自社ECサイトを通じて美容液の定期購買サービスも開始している |
直近 | ●第3段落 ・実店舗やネット上での同業他社との競争激化により販売が低迷 |
(4)今後の事業展開
今後の事業展開についての社長の想いは、与件文から以下のとおりになると思います。
●第5段落 ・男性向けアンチエイジング製品を新たな挑戦として開発し販売することを検討している ●第7段落 ・この新製品については、技術上の問題からOEM生産ではなく自社生産を行う予定であり、現在、そのための資金の確保を進めている ・D社社長は、早急にこの設備投資に関する意思決定を行うことが求められている |
(5)財務分析
D社の直近2期分の財務諸表は以下のとおりです。
最初に、D社の財務諸表の情報を、経済産業省の「ローカルベンチマーク」に入力して、財務情報の6指標を算出して見ました。
ローカルベンチマークとは、企業の経営状態の把握(企業の健康診断)を行うためのツールで、企業経営者と金融機関・支援機関とが対話を通じて企業の現状や課題を理解し、企業による経営改善や支援機関による企業支援に活用するものです。
出典:ローカルベンチマーク・シート(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/
6指標のうち「収益性」「生産性」「健全性」「安全性」の4つは業種内でも優れていますが、「売上持続性」と「効率性」が業種内で劣っています。
指標 | R4年度D社 | 点数 | 業種基準値 |
売上持続性 ①売上増加率 | -21.5% | 1 | -0.3% |
収益性 ②営業利益率 | 11.6% | 5 | 1.1% |
生産性 ③労働生産性 | 17,001(千円) | 5 | 1,103(千円) |
健全性 ④EBITDA有利子負債倍率 | (※) | 5 | 6.5(倍) |
効率性 ⑤営業運転資本回転期間 | 3.7(ヶ月) | 1 | 0.9(ヶ月) |
安全性 ⑥自己資本比率 | 77.6% | 5 | 32.1% |
(※)事例Ⅳ与件文に減価償却費の情報がないため指標が算出できませんが、現預金>借入金により5点が付与されており、業種内では優れています
ローカルベンチマークにおける各指標の算出式は以下のとおりです。
次に、設問文の第1問で問われている直近2期の比較について、2次筆記試験でお馴染みの財務指標を計算してみます。
■収益性
指標 | R3年度 | R4年度 | 改善/悪化 |
売上高総利益率 | 62.29% | 61.66% | 【0.63%悪化】 |
売上高営業利益率 | 16.99% | 11.59% | 【5.4%悪化】 |
■効率性
指標 | R3年度 | R4年度 | 改善/悪化 |
売上債権回転率 | 5.34回 | 5.26回 | 【0.08回悪化】 |
棚卸資産回転率 | 6.11回 | 6.14回 | 《0.03回改善》 |
有形固定資産回転率 | 89.83回 | 71.90回 | 【17.93回悪化】 |
総資産回転率 | 2.02回 | 1.53回 | 【0.49回悪化】 |
■安全性
指標 | R3年度 | R4年度 | 改善/悪化 |
流動比率 | 314.33% | 433.64% | 《119.31%改善》 |
当座比率 | 197.22% | 311.97% | 《114.75%改善》 |
固定比率 | 9.40% | 8.55% | 《0.85%改善》 |
自己資本比率 | 69.48% | 77.56% | 《8.08%改善》 |
設問文第1問設問2で問われている、悪化した財務指標の悪化原因ですが、ここでは「売上高営業利益率」の悪化原因を解答するのが一番良いと思います。
売上高営業利益率が悪化した原因は、同業他社の新製品投入にまだ対抗できていないため売上高が減少していますが、将来の新製品投入による成長を見込んで研究開発費や人件費を削減していないためです。
(6)強み・経営資源と弱み・問題点
強み・経営資源 | ●第1段落 ・製品の生産はOEM生産によっている 【OEM生産の財務的利点】 ・生産設備への投資が不要で、事業資金調達の負担が少ない ・自社生産と比較して固定費が少ない ●第2段落 ・自社ECサイトを通じて美容液の定期購買サービスも開始している ●第5段落 ・バイオテクノロジーを用いて男性向けアンチエイジング製品の研究開発を進めてきた ●令和4年度の財務諸表 ・流動比率が改善している《119.31%改善》 ・自己資本比率が改善している《8.08%改善》 |
弱み・問題点 | ●第3段落 ・実店舗やネット上での同業他社との競争激化による販売が低迷 ・このままでは売上高がさらに減少する可能性が高いと予想される ・今後は、輸送コストが高騰し、原材料等の仕入原価が上昇すると予想される ●第6段落 ・男性向けアンチエイジング製品は、今までにない画期的な製品であり、市場の状況が見通せない状況であるため、慎重な検討を要すると考えている ●令和4年度の財務諸表 ・売上高営業利益率が悪化している【5.4%悪化】 |
5-4.D社の課題と助言
(1)D社のSWOT分析
強み(Strength) | 機会(Opportunity) |
・22億円の利益剰余金および11億円の現金等による財務面での安全性の高さ ・バイオテクノロジーを用いた男性向けアンチエイジング製品の研究開発 | ・高齢化社会の到来による、顧客の健康志向、アンチエイジング志向 ・化粧品業界の中長期的な市場拡大の見込み |
弱み(Weakness) | 脅威(Threat) |
・既存製品の競争力低下による売上減少 | ・今後の輸送コスト高騰による仕入価格上昇 ・他メーカーが次々に新製品を市場に投入しており、競争が激化 |
(2)サプリメント製品系列における売上高基準の共通費配賦の妥当性
D社では、サプリメントの製品系列で、共通費(固定費のうち、本社一般管理部門の費用など、個別の製品に紐づかない費用。共通固定費ともいう)を売上高基準で配賦しており、3種類の製品のうちX製品が赤字になっています。
この製品別損益計算書に基づき各製品の貢献利益(限界利益-個別固定費)を計算したところ、全製品とも貢献利益は黒字となっています。
売上高基準での共通費配賦が妥当であるかどうかは、共通費配賦の目的および各製品の費用構造により異なると思います。
例えば、D社がOEM生産でドラッグストアに直接製品を卸しているとした場合、各製品の変動費と固定費の構造をこんな感じに想定してみました。
変動費 | ●売上原価 ・バルク(サプリメントの中身)の原材料費 ・パッケージの原材料費 ・OEM先へ支払う外注費 ●販売費 ・保管倉庫およびドラッグストアへの運送費 ・ドラッグストアへ支払うインセンティブ |
個別固定費 | ●販売費 ・製品在庫の保管倉庫費用 ・D社の企画・開発・販売担当者の人件費および諸経費 ・広告宣伝費 |
共通費 (共通固定費) | ●一般管理費 ・D社の一般管理部門の人件費および諸経費 ・D社事業所の賃料および減価償却費 |
そもそも共通費は売上原価ではなく一般管理費なので、原価計算のために配賦しているのではなく、各製品の利益を全社的な収支である営業利益ベースに落とし込むために配賦しています。
この場合、各製品の売上や利益目標の管理を目的として配賦しているのであれば、各製品の変動費と個別固定費の内容が何かを確認のうえ、実態に合った共通費配賦基準を採用するのがよいと思います。
■サプリメント製品系列における売上高基準の共通費配賦の妥当性に関する助言例
・各製品の売上や利益目標の管理を目的として共通費を配賦しているのであれば、売上高のみを基準にするのは妥当ではない
・各製品の変動費と個別固定費の内容が何かを確認のうえ、実態に合った共通費配賦基準を採用するのがよい
(3)新製品の生産に関わる設備投資の意思決定について
事例Ⅳの第3問については、恐らくは口述試験では細かな数字や計算方法については問われないと思います。
ここでは、第3問のストーリーについて確認します。
・D社は、同業他社との競争激化により販売が低迷しているため、新たな挑戦として男性向けアンチエイジング製品の開発・販売を検討している ・この新製品については、技術上の問題からOEM生産ではなく自社生産を行う予定である ・当該男性向けアンチエイジング製品は、今までにない画期的な製品であり、市場の状況が見通せない状況である |
この状況に基づくD社の意思決定については、以下のデシジョンツリーのとおり、2年度期首に年間販売量が明らかになったタイミングで年間販売量が10,000個の場合のみ投資を実行すればNPV(正味現在価値)が最大の620万円になるという結論となりました。
ただし、この結論に対する留意点は以下の2つです。
①ハイリスクハイリターン
初年度期首に投資して年間販売量10,000個になるのが1番大きなリターンが得られ、その確率は70%です。
D社の経営資源や社長の性格にもよりますが、利益剰余金が22億円、キャッシュが11億円ある中での1.1億円の投資でありリスクが許容可能だと判断できれば、あえてリスクを取りにいくことでハイリターンを狙うとともに、マーケティングや営業活動により新製品の販売量を増やすことで成功確率を上げリスクを軽減するという「リスクを取りに行き、自らのアクションで未来を変える」方向性もありだと思います。
②ローリスクノーリターン
2年度期首まで待ったうえで年間販売量5,000個が明らかになった場合、何もしなければ単にD社の売上が減少してジリ貧になるだけです。
そのため、2年度期首まで待つ判断をする場合は、設備投資をしない場合に備えた対案が必要であると思います。
対案の方向性の例としては以下のとおりです。
既存市場の販売量を増やす | ・既存市場向けの新製品を企画・開発・販売する ・既存製品をリニューアルして同業他社との競争力を高める |
男性向けアンチエイジング製品市場に新製品を投入する | ・技術上の問題点を解決してOEM生産する ・設備投資額を削減して自社生産する |
■新製品の生産に関わる設備投資の意思決定についての助言例
・男性向けアンチエイジング製品市場の状況が見通せないため、2年度期首に市場の状況が明らかになったタイミングで投資の意思決定をした場合の期待値が一番大きい
・リターンが一番多いのは初年度期首に設備投資を実施して市場の状況が良かった場合である。資金面では余力があるので、リスクを取ってハイリターンを狙い、自らのアクションで販売量を増やすという判断もありうる
・2年度期首まで投資の意思決定を待つ場合、結果的に何もしないことを避けるため、対案の検討が必要である。対案の方向性は、①既存事業の販売量を増やす、②男性向けアンチエイジング製品のOEM生産や設備投資額削減による自社生産、である
(4)OEM生産の財務的利点
D社は、基礎化粧品などの企画・開発・販売に特化しており、OEM(original equipment manufacturer)生産によって委託先に製品の生産を委託しています。
第4問設問1では、OEM生産の財務的利点について問われています。
この設問自体は助言ではないと思いますが、設問2とセットになっている気もします。
まずは、OEM生産を利用するメリットとしては、以下の2つが考えられます。
①生産設備への投資が不要で、事業資金調達の負担が少ない
②自社生産と比較して固定費が少ない
これらのメリットに基づき、(自社生産と比較した)OEM生産の財務的利点を収益性・効率性・安全性の切り口で洗い出してみます。
収益性 | ・固定費が少なく、売上が減少した場合に利益を確保しやすくなる |
効率性 | ・生産設備への投資が不要であり、より少ない固定資産での製品の販売が可能となるため、効率性が高まる |
安全性 | ・設備投資のための資金調達が不要となり、その分安全性が高まる |
■OEM生産の財務的利点に関する解答例
・自社生産と比較して固定費が少なく、売上が減少した場合に利益を確保しやすくなる。
・生産設備への投資が不要であり、より少ない固定資産での製品の販売が可能となるため、効率性が高まる。
・設備投資のための資金調達が不要となり、その分安全性が高まる。
(5)D社が新たな製品分野の製品を開発・販売する財務的利点
第4問設問2では、D社が新たな製品分野として男性向けアンチエイジング製品を開発し販売することの財務的利点について問われているため、一般論ではなくD社における利点について解答します。
前提条件として、設問文では生産(自社生産)については問われていないため、開発と販売に関する利点に絞って解答します。
まずは、D社が男性向けアンチエイジング製品を開発し販売するメリットとしては、以下の2つが考えられます。
①バイオテクノロジーを用いて基礎研究を進めてきた画期的な製品による、同業他社との技術面およびブランド面での差別化
②新たな分野の製品投入による新規需要の開拓
これらのメリットに基づき、財務的利点を収益性・効率性・安全性の切り口で洗い出してみます。
収益性 | ・化粧品市場は成長市場であり、新製品投入による売上増加と同業他社との差別化による利益増加で収益性が高まる |
効率性 | (特に無し:自社生産が必要になる場合、効率性が高まらない可能性があるため) |
安全性 | (特に無し:自社生産が必要になる場合、安全性が高まらない可能性があるため) |
なお、第3問における設備投資の意思決定の条件によると、年間販売量が10,000個の場合でも売上高1億円、利益0.16億円しかなく、令和4年度の減収額(12.48億円)と減益額(4.58億円)をカバーできません。
ちなみに、売上高1億円は第2問のサプリメントY製品と同じ売上で、サプリメントX製品の10分の1の売上しかありません。
売上(千円) | 営業利益(千円) | 利益率 | |
令和3年度 | 5,796,105 | 985,027 | 16.99% |
令和4年度 | 4,547,908 | 527,037 | 11.59% |
令和4年度の対前年増減額 | ▲1,248,197 | ▲457,990 | - |
設備投資による増加額 | 100,000 | (※)16,000 | 16.00% |
(参考) サプリメントY製品 | 100,000 | 15,000 | 15.00% |
(参考) サプリメント製品合計 | 1,900,000 | 25,000 | 1.32% |
(※)第3問の資料に基づき、費用を「変動費(40,000千円)+現金支出を伴う年間固定費(22,000千円)+減価償却費(22,000千円)」として計算した金額。年間固定費に共通費を含むかどうか明記されていないが、共通費を含むものとして営業利益と比較する。
■D社が新たな製品分野の製品を開発・販売する財務的利点についての助言例
・化粧品市場は成長市場であり、新製品投入による売上増加と同業他社との差別化による利益増加で収益性が高まる。
・ただし、現在の男性向けアンチエイジング製品市場の年間販売量予測では収益性を改善するには不十分であるため、新製品の開発・販売と並行して更なる市場調査やテストマーケティングを行い、新規需要を開拓していく必要がある。
■おわりに
私のタキプロ14期としてのブログ担当は今回が最終回となりますので、最後に受験生の皆さまへのメッセージを書かせていただきます。
私のタキプロ14期としての受験生支援活動はブログを中心として行ってきました。
タキプロ14期のブログ班は約70人おり、1人あたりの担当は約2か月に1回だけですが、自分で企画を出せばいくらでもブログを書いて公開することが可能です。
私の場合、通常のブログ担当数が1人あたり5~6本のところ、今回を含めて12本の記事を投稿することができました。前回までの記事一覧は以下のとおりです。
【合格体験記】
50代からの中小企業診断士試験1次・2次ストレート合格 Byかものしか (2023年6月30日公開)
【1次試験対策】
ちばりよ~受験生!R5年度経営法務の解説 byかものしか (2023年11月10日公開)
【2次試験対策】
事例Ⅰの徹底解説!令和4年度過去問の解法実況&再現答案解説 by かものしか (2023年7月1日公開)
事例Ⅱの徹底解説!令和4年度過去問の解法実況&再現答案解説 by かものしか (2023年6月8日公開)
事例Ⅲの徹底解説!令和4年度過去問の解法実況&再現答案解説 by かものしか (2023年4月29日公開)
いかす過去問天国!令和4年度事例Ⅳの解説 Byかものしか (2023年9月21日公開)
「ふぞろいな合格答案」を活用した2次試験の勉強法 byかものしか (2023年9月7日公開)
【試験会場案内】
1次試験当日シミュレーション(大阪地区編)Byかものしか (2023年7月24日公開)
大阪地区2次筆記試験会場のご案内 Byかものしか (2023年10月13日公開)
【特別企画】
新ユニット「TKPエイジレス」はじめました (2023年5月18日公開)
【文具研】2次試験用文具の小ネタ3題 Byかものしか (2023年9月21日公開)
今年3月からはタキプロ15期の活動がスタートします。
まだ口述試験前なので少し早いですが、私は、このブログの公開および今回の口述試験対策セミナーへの参加をもって、受験生支援活動を15期へバトンタッチします。
2次試験に合格された方で、中小企業診断士試験の受験生支援に興味がある方は、ぜひともタキプロ15期に参加してみてください。
次回は、おでん さんの登場です。
お楽しみに!
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