事例Ⅰの徹底解説!令和4年度過去問の解法実況&再現答案解説 by かものしか
目次
- ■はじめに
- ■第一部 2次試験のポイントと事例Ⅰの特性
- ■第二部 令和4年度事例Ⅰの解法実況
- ■第三部 再現答案を用いた令和4年度事例Ⅰの解説
- ■おわりに
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■はじめに
タキプロブログ読者の皆さま、こんにちは♪
タキプロ14期のかものしかと申します。
以下の2記事に引き続き、私の2次試験突破ノウハウの第3弾として、事例Ⅰ対策の記事を投稿します。
事例Ⅲの徹底解説!令和4年度過去問の解法実況&再現答案解説(令和5年4月29日投稿)
事例Ⅱの徹底解説!令和4年度過去問の解法実況&再現答案解説(令和5年6月8日投稿)
今回の事例Ⅰでも、少しでも受験生の皆さまのお役に立てるよう、引き続き次の3部構成で多面的にお送りします。
第一部:2次試験のポイントと事例Ⅰの特性
第二部:令和4年度事例Ⅰの解法実況
第三部:再現答案を用いた令和4年度事例Ⅰの解説
■第一部 2次試験のポイントと事例Ⅰの特性
最初に、2次試験のポイントについて説明したうえで、事例Ⅰの特性について説明します。
1.2次試験(事例Ⅰ~Ⅲ)のポイント
私が考える2次試験(事例Ⅰ~Ⅲ)のポイントはたったの2つです。
●ポイント①:解答の型(テンプレート)を作り、そこに内容を入れる
●ポイント②:設問文、与件文、1次知識から当然に言える内容を書く
ポイント①については、2次試験ではとにかく時間がないので、時短のために解答をテンプレート化することが有効です。
ポイント②については、設問文、与件文、1次知識から当然に言える内容を書ければ、たとえ高得点(70点以上)は取れなくても、少なくとも足切り(39点以下)にはならないと思います。
1-1.解答の型(テンプレート)
解答の型とは、予め解答の構成をテンプレート化しておき、解答作成前に設問文の情報から使用するテンプレートを決定するものです。
解答の型の決定要素は、以下の2つです。
①設問のタイプ
②解答の主語
ここで大事なことは、解答の型はあくまでも初期仮説に過ぎないということです。
与件文を読んで初期仮説を検証した後は、解答の型をベースに解答構成を柔軟にカスタマイズしても構いませんし、その方が良いと思います。
(1)設問のタイプ
設問のタイプとは、「『まとめシート』流!ゼロから始める2次対策」(野網美帆子著、kindle電子書籍)でも紹介されている概念で、次の3タイプ(情報整理、期待効果、助言)に分類します。
①情報整理
過去または現在の事項について問われているタイプの設問です。
与件文に基づく情報(与件文の抜き書き)のみを書けばよいタイプの設問です。
過去10年分(平成25年度~令和4年度)の過去問の傾向からいうと、事例Ⅰでは、事例Ⅱや事例Ⅲと異なり、単純に強み/弱みやSWOTについて問われる設問は少なく、要因や理由について問われる設問などが出題されています。
ただし、令和4年度ではそれ以前とは傾向が変わり、事例Ⅱや事例Ⅲと同じように強み/弱みについて問われていました。
情報整理で使用する解答構成のテンプレート(基本形)は次のとおりです。
●主語が1つの場合
(主語)は①・・②・・。 |
●主語が2つの場合
(主語1)は①・・②・・、(主語2)は①・・、②・・。 |
②期待効果
理由やメリット・デメリットなどについて問われており、かつ、与件文と1次知識に基づく示唆(理由やメリット・デメリットなどに関する自分の意見)を書く必要があるタイプの設問です。
事例Ⅰの期待効果の設問では、基本的に過去または現在について問われており、情報整理との区別が難しいことが多いです。
そこで、設問文を読んだだけでは情報整理と期待効果のどちらか分からない場合は、一旦「期待効果」としておき、与件文を読んだうえで情報整理(与件文の抜き書きのみ)か期待効果(「与件文+1次知識に基づく示唆」を書く)かを決めればよいと思います。
なお、令和3年度まで事例Ⅰではこの「期待効果」タイプの設問が多かったですが、令和4年度では傾向が変わり期待効果タイプの設問はありませんでした。
令和5年度の事例Ⅰではどうなるか分かりません。
期待効果で使用する解答構成のテンプレート(基本形)も情報整理と同じです。
●主語が1つの場合
(主語)は①・・②・・。 |
●主語が2つの場合
(主語1)は①・・②・・、(主語2)は①・・、②・・。 |
③助言
今後(未来)の事項について問われており、かつ、「戦略または施策」について問われているタイプの設問です。
設問文に「助言せよ」、「どのような○○を行うべきか」等と書いてあるものです。
与件文と1次知識から、「戦略または施策+その効果」に関する示唆(自分の意見)を書くタイプの設問です。
この場合に使用する解答構成のテンプレート(基本形)は、効果が付け加わります。
●主語が1つの場合
(主語)は①・・②・・、により(効果)する。 |
●主語が2つの場合
(主語1)は①・・②・・、(主語2)は①・・、②・・、により(効果)する。 |
なお、効果の記載は絶対ではありません。解答骨子を作成して書くべき内容を決めた後で、文字数がどうしても足りず、かつ問われている内容から効果よりも戦略や施策などを書く方が重要だと判断した場合は効果の記載を省略しても構いません。
(2)解答の主語
基本的に、設問文で「何を」問われているか把握のうえ、問われている「何」を主語にします。
1-2.設問文、1次知識、与件文から当然に言える内容を書く
これは要するに、自分の経験やアイデアに基づく解答を書くのではなく、設問文(制約条件)、与件文(制約条件に合致する記載)、1次知識(設問文と与件文に関連するもの)の3つから当然に言える内容を解答として書くということです。
このうち設問文と与件文については、いわゆる国語力(何を問われているか正しく読解して、問われていることに対して素直に答える能力)が必要です。
また、1次知識については、いわゆる「2次試験で問われる1次試験の知識」を覚えたうえで、それを2次試験で使えるようになる必要があります。
1次知識を2次試験で使えるようになるためには、
①抽象化能力
②論理的思考力(ロジカルシンキング)
の2つの力を身に付ける必要があります。
また、設問文から論点を素早く特定し初期仮説を設定するためのテクニック的な要素として、「論点の層(レイヤー)」という考え方もあります。
(1)抽象化能力
抽象化能力とは、要するに「設問文や与件文の記載から、その記載と関連する1次知識の理論に結び付けられる能力」を指します。
事例Ⅰでは、事例Ⅱや事例Ⅲと較べて解答作成で必要な1次知識の種類が多いので、特に抽象化能力が重要となっています。
抽象化能力について詳しく知りたい方には「TBC中小企業診断士試験シリーズ 速修2次テキスト」(山口正浩監修、早稲田出版)をお勧めします。
(2)論理的思考力(ロジカルシンキング)
論理的思考力とは、抽象化能力を使って設問文や与件文と結び付けた1次知識を解答作成で使う際に必要となる能力で、具体的には次の2つに分類できます。
①ヨコの論理:枠組み(フレームワーク)
②タテの論理:因果関係
①ヨコの論理:枠組み(フレームワーク)とは、要するに「ものごとを一面だけから見ずに多面的に見る」ということで、2次試験でよく言われる「多面的な解答」とは「枠組みで考える」ということだと思います。
事例Ⅰでよくある具体例として、A社の人事施策を検討する際には、茶化(サハホイヒ)の枠組みで考えれば多面的な解答が可能になります。
サ:採用 | 採用管理(正規雇用、非正規雇用、インターンシップ) |
ハ:配置 | 配置・異動(昇降/降格、配置転換、社内公募制度) |
ホ:報酬 | 報酬管理(年功給、職能給、職務給、成果給) |
イ:育成 | 能力開発(OJT、OFF-JT) |
ヒ:評価 | 評価制度(年功序列、能力主義、成果主義) |
②タテの論理:因果関係とは、通常は「Aという施策を行えば、Bという効果がある」という、1段階の因果関係を意味します。
一方、中小企業診断士2次試験というか事例Ⅰの場合は、「Aという課題または『得たい効果』があるので、Bという施策を行えば、Cという効果がある」という2段階の因果関係を意識する必要があります。
事例Ⅰの場合、「Aという課題または『得たい効果』」と「Bという施策」との関係が事例Ⅱや事例Ⅲと比較して1つに決まっていない気がします。そのため「Bという施策→Cという効果」の部分を明確に解答することで「Cという効果→Aという課題または得たい効果」の因果関係を明確にする必要があると思います。
具体例としては、令和4年度の事例Ⅰの第4問設問1では、どちらに高い点が付くかは別として、因果関係が成立していれば「機能別組織」と「事業部制組織」のどちらでも解答として成立すると思います。
この場合に解答として重要なのは「Bという施策→Cという効果→Aという得たい効果」の因果関係であり、単に「機能別組織」や「事業部制組織」といったキーワードを書いただけでは点が付きにくいと思います。
●例1:機能別組織で回答
・機能別組織のメリット:専門性を高めやすい
・因果関係
Bという施策 | 機能別組織とする |
Cという効果 | 専門性を高める |
Aという得たい効果 | 役割分担を明確化し、新たな分野に挑戦する |
●例2:事業部制組織で回答
・事業部制組織のメリット:利益責任が明確化する
・因果関係
Bという施策 | 事業部制組織とする |
Cという効果 | 利益責任を明確化する |
Aという得たい効果 | 役割分担を明確化し、新たな分野に挑戦する |
(3)論点の層(レイヤー)
レイヤーも、野網美帆子先生が一発合格道場ブログや著書で独学生に広めてくれた概念で、事例Ⅰでは4つのレイヤー(経営戦略、組織構造、組織の活性化、人的資源管理)に分類します。
レイヤーの目的は、設問で何が問われているか(論点)を大きく分類し、その分類の中で解答の論点を特定することです。
事例Ⅰでは、事例Ⅱや事例Ⅲと較べてレイヤーの概念が重要です。
レイヤー | 論点の例 |
①経営戦略 | ■SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威) ■VRIO分析(経済性、希少性、模倣困難性、組織能力) ■ドメイン(顧客、顧客機能、技術) |
②組織構造 | ■機能別組織 ■事業部制組織 ■マトリックス組織 |
③組織の活性化 | ■組織文化 ■組織学習 |
④人的資源管理 | ■モチベーション ■サハホイヒ(採用、配置、報酬、育成、評価) |
2.事例Ⅰの特性
ここまでの前提を踏まえて、事例Ⅰの特性について説明します。
2-1.事例Ⅰの理論のポイント
(1)事例Ⅰの難しい点
私は、昨年(令和4年)の受験生時代には、2次筆記試験の4事例の中で事例Ⅰが一番苦手でした。その理由として挙げられる事例Ⅰの難しい点は以下の3つです。
①与件文の抜き書きだけで解答を作成できない問題が出題されること。
②解答作成に必要な1次知識の種類が多く、設問文や与件文からどの1次知識を使うか思い出すのが比較的難しいこと。
③1次知識の対象範囲である組織や人事の理論は内容が抽象的であり、単にキーワードを覚えるだけでなく、メリットやデメリット、効果や留意点まで覚えたうえで体系的に理解する必要があること。
これら事例Ⅰの難しい点を克服するために私が取り組んでいたのは、まずは過去問演習時の復習と振り返りの徹底でした。
また、スキマ時間の活用策として「2次試験合格者の頭の中にあった全ノウハウ」の想定問題集を使った100字トレーニングも行っていました。
この想定問題集は、2次試験の過去問を意識した設問文となっており、特に事例Ⅰは事例Ⅱや事例Ⅲと較べて与件文無しの設問文だけでも100字のマス目を埋めやすく、トレーニング効果が高かったと思います。
私は、自分でマス目入りのトレーニングシートを作り、Goodnotes5でiPad miniに取り込んだうえで、移動時間や昼休みなどのスキマ時間にタッチペンでiPad miniに書き込んでトレーニングしまくっていました。
また、100字トレーニングを行った後は、同じくGoodnotes5でiPad miniに取り込んだ「抽象化ブロックシート」を用いて、関連する1次知識の復習を行うことで知識の定着を図っていました。
(2)レイヤー自体を枠組みとして理解することで1次知識を体系的に理解する
事例Ⅰでは、設問文と与件文からどの1次知識を使うかの選択が重要になります。
そこで、試験テクニックであるレイヤー自体をひとつの枠組み(フレームワーク)として理解します。
経営戦略が最上位にあって、経営戦略を実現するための組織・人事の枠組みとして組織構造、組織の活性化、人的資源管理があるという理解です。
次に、事例Ⅰに関係する1次知識を4つのレイヤーに分類のうえ、各レイヤー内で1次知識間の関係を整理することで、1次知識を理論として体系的に理解します。
私は、抽象化ブロックシートをGoodnotes5でiPad miniへ取り込んだうえで、事例Ⅰのシートをレイヤー別にグループ化して並べ替えることで、体系的な理解に取り組んでいました。
(3)経営戦略
①経営者の想い
与件文中に経営者の想いに関する記載がある場合、その内容を意識して解答を作成します。
②環境分析(SWOT分析)
事例Ⅰでは設問文で直接的にSWOT分析について問われることはあまり無いですが、第二部で記載のとおり、与件文を読む際にSWOTに関する記載に印を付けておくことをお勧めします。
③環境分析と企業戦略の関係
「環境(内部環境または外部環境)の変化に伴いドメインの再定義を行う」という流れを理解します。
(4)組織構造
①過去10年間の過去問における組織形態の記載
与件文で明記された組織形態は機能別組織のみですが、機能別組織だけでなく、他の組織形態との違いも体系的に理解しておくことが望ましいです。
年度 | 過去問における事例企業の組織形態 |
令和4 | (与件文には組織形態の記載無し) →設問文には組織構造に関する設問あり |
令和3 | (与件文には組織形態の記載無し) ・印刷部門とデザイン部門の2部門体制の組織 |
令和2 | (与件文には組織形態の記載無し) ・酒造、レストラン事業、土産物販売事業、総務部門からなる組織 |
令和1 | ・機能別組織 →経営コンサルタントの助言により組織再編を見送った |
平成30 | (与件文には組織形態の記載無し) ・従前は専門知識別に部門化されていた →製品開発部門、品質管理部門、生産技術部門に編成替えをし、各部門を統括する部門長を役員が兼任した |
平成29 | ・機能別組織 |
平成28 | ・機能別組織 →複数の事業間に横串を刺すことによって、全社が連動し人材の流動性を確保できるような組織に改変した |
平成27 | ・プラスチック製容器製造事業を関連会社として分社 ・A社単体の事業は自動車部品製造と健康ソリューション事業 |
平成26 | ・機能別組織 |
平成25 | (与件文には組織形態の記載無し) |
②3つの組織形態の比較
各組織形態のメリット・デメリットは相対的なものです。そのため、どの組織形態がベストかはあくまでも与件文の記載に基づき判断する必要があります。
組織形態 | メリット | デメリット |
機能別組織 | ・機能の集約により効率化できる ・各機能の専門性を高めやすい ・トップによる統制がとりやすい | ・トップの負担が大きい ・経営者人材の育成が難しい ・利益責任が不明確になりやすい |
事業部制組織 | ・事業部毎の利益責任が明確になる ・事業部単位での迅速な意思決定が可能になる ・事業部長への権限委譲で経営者人材を育成できる | ・事業部毎の利益追求により短期的視野になりやすい ・事業部間で機能が重複し非効率 ・事業部間のセクショナリズムが生じる |
マトリックス組織 | ・各部門で人的資源や情報が共有できる ・部門間のシナジー効果が得られる | ・命令系統が2つとなり、コンフリクトが生じやすい |
(5)組織の活性化
①組織文化
組織内で共有している行動様式や価値観。経営戦略の実行に影響します。
②組織学習
組織学習により、組織文化を経営戦略に合わせて変革していきます。
●低次学習と高次学習
低次学習(シングルループラーニング)とは、既存の組織文化の中で行動の改善を行っていく組織学習です。
一方、高次学習(ダブルループラーニング)とは、既存の組織文化自体を見直して変革する組織学習です。
(6)人的資源管理
①モチベーション理論
基本的に、マグレガーのY理論(自発的)、ハーズバーグの動機づけ要因(満足要因)に基づいた人事施策により、所属員のモチベーションを向上します。
②人事施策(採用、配置、報酬、育成、評価)
採用 | ■新卒採用 ・長期的な視野で採用する ・自社の企業文化や価値観に合わせて育成する ■中途採用 ・即戦力として採用する ・新しい企業文化や価値観を導入する ■非正規社員採用 ・業務量の変動へ柔軟に対応する ・多様な働き方に対応して労働力を確保する ■採用方法 ・自社の経営理念や経営戦略を訴求した採用活動を行う ・新卒採用では、インターンシップにより学生に自社の業務を体験してもらう |
配置 | ■昇格・降格(タテの異動) ・評価に応じた役職やポジションに配置することでモチベーションを向上する ■配置転換(ヨコの異動) ・評価や本人希望に応じた適材適所の担当職務に配置することでモチベーションを向上する ■ジョブローテーション(主に勤続年数の浅い人が対象) ・社内各部署を計画的に経験することで組織や業務の全体像を把握させるとともに、本人の適性を把握する |
報酬 | ・評価に応じた報酬制度とすることでモチベーションを向上する (報酬自体はハーズバーグの衛生要因である) |
育成 | ・育成を通じた成長によりモチベーションを向上する ■OJT ・実務に即した教育に向いている ■Off-JT ・新しい知識の教育に向いている |
評価 | ■成果主義評価、能力主義評価 ・年齢や勤続年数にかかわらず公平な評価が可能となり、若年者や中途採用者のモチベーションを向上する ■年功主義評価 ・長期的な成果に対する評価が可能となり、集団としてのモチベーションを向上する |
2-2.事例Ⅰの問題の構成
(1)事例Ⅰの大まかなストーリー
平成25年度から令和4年度までの10年間の傾向から言える事例Ⅰの大まかなストーリーは
既存事業から新規事業へのドメイン再定義を、組織制度や人事制度の改善により実現する
です。
年度 | 既存事業 | 新規事業 |
令和4 | ・野菜・フルーツの生産 (有機野菜の販売業者と取引) | ■2000年代半ば(法人化時) ・有機野菜の販売事業 ■ここ数年 ・食品加工(業者への販売) ・直営店(消費者への販売) |
令和3 | ・事務用品メーカーの印刷下請 ・特殊なビジネスフォームの印刷加工 | ■1990年代 ・印刷機を持たない印刷事業 (美術印刷、高精度な仕上がりが求められる分野) ■現経営者入社後 ・デザイン部門 ・紙媒体に依存しない広告制作 |
令和2 | ・酒造事業(ルートセールス) | ・土産物販売事業 ・レストラン事業 ・酒造事業(直販方式) |
令和1 | ・葉たばこ乾燥機の製造販売 | ・さまざまな農作物の乾燥機器の製造販売 |
平成30 | ・国内大手電子メーカー向け特注電子機器製造 | ■平成不況以降 ・複写機関連製品事業 ■リーマンショック以降 ・環境エネルギー事業の開発 ・法人顧客向けの精密機械の開発 ・LED照明関連製品の開発 |
平成29 | ・主力商品(地元での認知度が高い高級菓子)の製造と取引先への販売 | ■将来の課題 ・首都圏出店 ・全国市場で戦える新商品の開発 |
平成28 | ・学校アルバム事業 ・美術印刷事業 | ■1980年代後半以降 ・企業研修事業 ・教育関連事業 ・デザインコンサルティング事業 ・出版事業 ■リーマンショック以降 ・美術館、企業、一般消費者向けのアルバム事業 |
平成27 | ・バトミントン用品の製造販売 ・自動車部品の製造(受注生産) | ■1970年代の経営危機以降 ・プラスチック製容器製造 ■1980年代以降 ・ゲートボール用品の製造販売 ・グラウンドゴルフ用品の製造販売 ■2000年代半ば以降 ・福祉事業 ・スポーツ関連分野の事業全体を健康ソリューション事業と再定義 |
平成26 | ・精密ガラス加工製品事業 | ・レーザー用放電管事業 ・理化学分析用試験管事業 |
平成25 | ・近隣県産の特産品の通信販売 ・健康の維持・増進向けサプリメントの通信販売 | ・骨・関節サポート向けサプリメントの通信販売 |
(2)事例Ⅰの設問構成の変化
事例Ⅰが事例Ⅱや事例Ⅲと大きく異なる点は、令和3年度までは助言問題(未来の改善について助言させる問題)が少なく、期待効果問題(過去または現在の改善実績について説明させる問題)が多かったことです。
ところが、令和4年ではそれが一変して、事例Ⅱや事例Ⅲと同じく、第1問で自社の強みと弱みに関する設問が出題されたうえで、第2問以降は助言問題ばかりになりました。
年度 | 過去または現在の状況または改善実績に関する設問 | 未来の改善について助言させる設問 |
令和4 | 第1問【自社の強みと弱み】 | 第2問、第3問 第4問(設問1、設問2) |
令和3 | 第1問【ファブレス化を行った理由】 第2問【3代目にデザイン部門の統括を任せた理由】 第3問【事業ドメイン拡大の利点と欠点】 | 第4問、第5問 |
令和2 | 第1問設問1【A社買収時の経営ビジョン】 第1問設問2【A社買収時の施策の理由】 第2問【情報システム化の手順】 第3問【営業担当者に伸ばすことを求めた能力】 | 第4問 |
令和1 | 第1問【事業が成功しなかった最大の理由】 第2問【企業風土】 第3問【市場開拓成功の要因】 第4問【新規事業拡大に積極的になった要因】 第5問【組織再編を見送った最大の理由】 | |
平成30 | 第1問【ターゲット市場選択の理由】 第2問設問1【製品開発の力点の理由】 第2問設問2【既存事業と新規事業の特性の違い】 第3問【組織改編の目的】 | 第4問 |
平成29 | 第1問【主力商品復活の最大の要因】 第2問【経営体制の特徴】 第3問【工業団地への移転の戦略的メリット】 | 第4問、第5問 |
平成28 | 第1問設問1【当初の事業展開での成長の要因】 第1問設問2【新規事業が成果を上げない要因】 第2問設問2【組織改編の理由】 | 第2問設問1、第3問 |
平成27 | 第1問【スポーツ用品市場の特性】 第2問【関連会社設立の理由】 第3問【今後の経営課題の可能性】 第4問【賃金制度選択の理由】 | 第5問 |
平成26 | 第1問【研究開発型中小企業増加の背景】 第2問【製品が主力に育たなかった理由】 第3問【新規事業に伴う組織管理上の課題】 第4問【製品の良品率改善の要因】 | 第5問 |
平成25 | 第2問設問1【中高年層を採用する理由】 第3問【新卒正規社員を採用する理由】 第4問【顧客情報が新製品開発に結びつかない理由】 | 第1問(設問1、設問2) 第2問設問2 |
(3)事業承継を取り上げた事例の増加
事例Ⅰでは、過去10年間のうち6年分の事例で事業承継が取り上げられており、特に令和元年度以降は4年連続で事業承継が取り上げられています。
事業承継者【事業承継の類型】 | 事業承継者の経歴等 | |
令和4 | A社後継者(常務の娘) 【親族内承継】 | 大学卒業後、一貫して飲食サービス業で店舗マネジメントや商品開発の業務に従事してきた |
令和3 | 現在の3代目社長 【親族内承継】 | 広告代理店に勤務していた |
令和2 | 地元の有力者(A社長の祖父) 【社外への引継ぎ】 | 飲食業を皮切りに事業をスタートさせ次々と店舗開拓に成功しただけでなく、 30年ほど前には地元の旅館を買収して娘を女将にすると、全国でも有名な高級旅館へと発展させた実業家である |
〃 | 現在のA社長(有力者の孫) 【親族内承継】 | 首都圏の金融機関に勤めていた |
令和1 | 現在のA社長(創業者の孫) 【親族内承継】 | 大学卒業後の海外留学中に父が病気となったために急きょ呼び戻されると、そのままA社に就職することになった |
平成30 | - | - |
平成29 | 創業者のA社社長(元X社社員) ※事業承継ではなく、新会社A社設立によるX社の事業再興 | 1970年代半ばから長年にわたって営業の最前線でキャリアを積んだA社社長は、経営破綻時に(X社の)営業課長の職にあった |
平成28 | 現在のA社社長(5代目) 【親族内承継】 | (社長就任前の記載無し) |
平成27 | 現在のA社社長(2代目) 【親族内承継】 | 都市部でのサラリーマン |
平成26 | - | - |
平成25 | - | - |
2023年版中小企業白書においても、事業承継による経営者の世代交代の重要性が記載されており、令和5年度でも事業承継と絡めた事業ドメイン再定義について出題される可能性があります。
先行研究では、経営者年齢が若い企業ほど新たな取組に果敢に挑戦する企業が多い様子も示されており、事業承継によって経営者の世代交代を円滑に進めることや、起業による新規参入を促進することは、変革や成長の機会となり得る。 出典:2023年版中小企業白書 297ページ |
我が国では、経営者年齢の高齢化が進む中、多くの企業で経営者の交代時期が迫っており、事業承継は引き続き重要な政策的課題といえる。 また後継者不在率は低下傾向にあるものの、経営者年齢が70歳代以上にもかかわらず後継者が決定していない企業も一定程度存在しており、事業承継が進んでいる企業と進んでいない企業で二極化している様子がうかがえる。 事業承継を検討している中小企業経営者においては、事業承継を行うか早期に判断し、後継者候補に引継ぐ意思を明確に伝えた上で、事業承継に向けた準備を進めていくことが重要と示唆される。 出典:2023年版中小企業白書 308ページ |
(4)解答字数が100字より多い問題への対応
事例Ⅰでは過去5年間、解答字数が100字より多い問題は出題されていません。
ただし、過去10年間では120字と150字の問題が計3問(平成26年度第1問、平成27年度第2問、平成29年度第5問)出題されています。
令和4 | 第1問 100字 | 第2問 100字 | 第3問 100字 | 第4問設問1 50字 | 第4問設問2 100字 | |
令和3 | 第1問 100字 | 第2問 100字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | 第5問 100字 | |
令和2 | 第1問設問1 100字 | 第1問設問2 100字 | 第2問 100字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | |
令和1 | 第1問 100字 | 第2問 100字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | 第5問 100字 | |
平成30 | 第1問 100字 | 第2問設問1 100字 | 第2問設問2 100字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | |
平成29 | 第1問 100字 | 第2問 100字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | 第5問 150字 | |
平成28 | 第1問設問1 100字 | 第1問設問2 100字 | 第2問設問1 100字 | 第2問設問2 100字 | 第3問 100字 | |
平成27 | 第1問 100字 | 第2問 120字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | 第5問 100字 | |
平成26 | 第1問 120字 | 第2問設問1 100字 | 第2問設問2 100字 | 第3問 100字 | 第4問 100字 | |
平成25 | 第1問設問1 80字 | 第1問設問2 100字 | 第2問設問1 80字 | 第2問設問2 100字 | 第3問 80字 | 第4問 80字 |
■第二部 令和4年度事例Ⅰの解法実況
次に、第一部の内容に基づいて、実際に令和4年度事例Ⅰを解いた場合どうなるかを、実際の私の解法プロセスに沿って順に書いていきます。
なお、ここで書く解答は令和5年6月現在で私が解いた解答であり、昨年の2次筆記試験本番の再現解答ではありません。私の再現解答は第三部で紹介します。
1.私の解答プロセスについて(事例Ⅰ~Ⅲ)
(1)解答プロセスの全体像
解答プロセスとは、要するに「80分間の使い方」です。
色々な流派がありますが、私の流派は「『まとめシート』流!ゼロから始める2次対策」(野網美帆子著、kindle電子書籍)のプロセスをベースに、「30日でマスターできる 中小企業診断士第2次試験 解き方の黄金手順」(黄金手順執筆チーム著、中央経済社)の要素も一部取り入れたうえで、事例演習を繰り返してカスタマイズしたものです。
自分にとってベストの解法プロセスは人それぞれなので、できれば1次試験までには自分に合いそうな流派を見つけておくことが望ましいです。
私の解答プロセスの特徴は「設問解釈に時間を掛けずに、解答メモへの解答骨子記入に時間を掛ける」です。
過去問事例演習時には設問解釈に10分掛けていましたが、2次試験本番では気合で高速処理することで設問解釈を5分に短縮し、稼いだ時間を解答メモへの解答骨子記入に充当しました。
解答プロセス | 事例演習時の 目安時間 | 2次試験本番 の実績時間 |
①最初にやること | 1分(累計1分) | 1分(累計1分) |
②設問解釈 | 9分(累計10分) | 4分(累計5分) |
③与件文解釈 | 10分(累計20分) | 10分(累計15分) |
④解答メモへの解答骨子記入 | 25分(累計45分) | 30分(累計45分) |
⑤解答用紙への解答記入 | 35分(累計80分) | 35分(累計80分) |
(2)各プロセスで行うこと
各プロセスで行うことは次のとおりです。
解答プロセス | 各プロセスで行うこと |
①最初にやること | ・解答用紙への受験番号記入 ・問題用紙から解答メモを切り離す ・与件文への段落番号記入 ・第1段落だけ読み業種を把握する |
②設問解釈 | ・設問文の制約条件に下線を引く ・設問のタイプとレイヤーを判別して設問文ページに書き込む ・設問文とレイヤーから解答の切り口として使えそうな1次知識を特定して設問文ページに書き込む ・解答の型を設問文ページに書き込む |
③与件文解釈 | ・1回目に与件文を読む時、与件文にSWOTの印を書き込む ・1回目に与件文を読む時、与件文の気になる箇所へシャープペンシルで下線を引く ・2回目に与件文を読む時、各設問に対応した色のフリクションマーカーで与件文の段落に印を付ける |
④解答メモへ解答骨子を記入 | ・解答メモ上で設問別の記入欄を区切り、各設問の解答順序を書き込む ・設問文ページへの書き込み(解答の型、制約条件、1次知識に基づく解答の切り口)と、与件文ページへの書き込み(段落番号とマーカーの印、SWOTの印)に基づき、与件文中で解答に使えそうな記載へマーカーで線を引く ・解答メモに解答骨子を書く |
⑤解答用紙へ解答を記入 | ・解答用紙に④で決めた解答順序で解答を書く |
(3)解答骨子を作る際に意識する点
私の流派の解答プロセスでは「④解答メモへ解答骨子を記入」が最重要プロセスになります。
解答骨子の記入時には、以下の2点を意識する必要があります。
①問われていることとの関連性と重要性
解答には文字数の制限があるため、全ての解答要素が書けない場合があります。
また、「問われていること(設問文の制約条件)」の答えになっていない解答要素を書いても点が付かないと考えます。
そのため、解答骨子の作成時には、「問われていることと関連性があるか」と「A社の特性(強み、弱みなど)から考えて重要性が高いか」の2つの観点から、どの解答要素を使うかを考えながら作成します。
②設問間での一貫性
解答骨子の作成時には、事例Ⅰの全設問を俯瞰的に見て、「第2問以降の施策は、第1問で解答した現状分析の内容と関連があるか」や「ある設問の施策は、別の設問の施策と相反する内容になっていないか」の観点から、どの設問でどの解答要素を使うか、全設問を1つのストーリーと考えて作成します。
ただし、現実的に初見問題で80分の制限時間内に設問間での一貫性まで意識するのはかなり難しいです。そのため、日頃から過去問演習の復習時に設問間の一貫性を意識することで、本番で一貫性のある解答を書ける可能性が少しでも上がると思います。
2.令和4年度事例Ⅰの解法実況
それでは、私の解答プロセスに沿って、令和4年度事例Ⅰの解答を作成していきます。
2-1.最初にやること
最初にやることは、所要時間1分ぐらいを目安に行います。
(1)解答用紙への受験番号記入、問題用紙から解答メモを切り離す
試験開始後、最初に解答用紙へ受験番号を記入します。
次に、問題用紙の裏表紙にあたる部分の紙を、折り目に沿って手で切り離して解答メモを作ります。
(2)与件文への段落番号記入
次に、与件文の各段落へ赤ペンで段落番号を記入します。段落番号を振る意味は、後述の与件文解釈の際に段落単位で与件文と設問文とを紐付けしやすいためです。
(3)第1段落だけ読み業種を把握する
与件文の第1段落にはA社の業種と中小企業の要件(資本金、従業員数)が記載されていますので、設問解釈をスムーズに行うため、第1段落を読んで業種を把握します。
A社は、サツマイモ、レタス、トマト、苺、トウモロコシなどを栽培・販売する農業法人(株式会社)である。資本金は1,000万円(現経営者とその弟が折半出資)、従業員数は40名(パート従業員10名を含む)である。A社の所在地は、水稲農家や転作農家が多い地域である。 https://www.j-smeca.jp/attach/test/shikenmondai/2ji2022/a2ji2022.pdf |
2-2.設問解釈
いよいよここからが解法プロセスの本番です。設問解釈は所要時間4~9分ぐらい、累計5~10分ぐらいで行います。
2次試験の過去問を解く際、設問文から読む人と与件文から読む人の2通りがありますが、私は設問文から読む方をお勧めします。
理由は、与件文には解答との関連の薄い情報も含まれており、先に設問文を読んで解答の初期仮説を立てて、仮説を検証するという形で与件文を読む方が効率が良く、80分の持ち時間を有効に使えるためです。
(1)設問文の制約条件に下線を引く
まずは、何の内容について解答することを求められているのかを把握するため、設問文を読んで制約条件となる部分に下線を引きます。
制約条件は、①誰が(主語)、②いつ(When)、③どこで(Where)、④誰に(Who)、⑤なぜ(Why)、⑥何を(What)、の6つ(主語+5WIHのうち5W)に分類できます。
(2)設問のタイプとレイヤーの判別
設問のタイプとレイヤーを判別して設問文ページに書き込みます。
設問のタイプについては、事例Ⅰの助言問題では設問文に「助言せよ」と書かれていることが多いのですが、令和3年度の第5問では助言問題として「長期的な課題とその解決策について100字以内で述べよ」と書かれていました。
また、過去や現在の事項について問われている問題で情報整理と期待効果の区別が付きにくい場合は、時間をかけずに初期仮説としてどちらかに決めておき、与件文を読んでから必要に応じて見直せばよいと思います。なお、令和4年度の事例Ⅰでは期待効果の問題は出題されませんでした。
(3)解答の切り口として使えそうな1次知識の特定
設問文とレイヤーから解答の切り口(フレームワーク)として使えそうな1次知識を特定して設問文ページに書き込みます。
(4)解答の型を設問文ページに書き込む
解答の型は、設問解釈時に一旦初期仮説として決めますが、実際に解答を書く際には内容に応じて構成を見直してもよいと思います。
解答の型を作成する際、複数の解答要素を列挙する場合は「①・・②・・」と、丸囲い数字を用いた箇条書きを用いる人が多く、私もこの書き方で合格点を取れました。
なお、「①・・」と「②・・」の間の句点「、」は、有りでも無しでもどちらでも構いません。
【設問解釈の結果まとめ】
■第1問
A社が株式会社化(法人化)する以前において、同社の強みと弱みを 100 字以内で分析せよ。 |
●制約条件:
A社 | 「①誰が(主語)」の制約 |
株式会社化(法人化)する以前 | 「②いつ(when)」の制約 |
強み | 「⑥何を(what)」の制約 |
弱み | 「⑥何を(what)」の制約 |
●設問のタイプ:情報整理
●論点のレイヤー:経営戦略
●1次知識による解答の切り口:SWOT
●解答の型:強みは①・・②・・、弱みは①・・、②・・。
■第2問
A社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。 |
●制約条件:
A社 | 「①誰が(主語)」の制約 |
新規就農者 | 「④誰に(Who)」の制約 |
獲得し | 「⑤なぜ(why)」の制約 |
定着させるため | 「⑤なぜ(why)」の制約 |
必要な施策 | 「⑥何を(what)」の制約 |
●設問のタイプ:助言(「助言せよ」と書いてあるため)
●論点のレイヤー:人的資源管理
●1次知識による解答の切り口:サハホイヒ(採用、配置、報酬、育成、評価)
●解答の型:施策は①・・②・・③・・ことで、( 効果 )を得る。
■第3問
A社は大手中食業者とどのような取引関係を築いていくべきか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。 |
●制約条件:
A社 | 「①誰が(主語)」の制約 |
大手中食業者 | 「④誰に(Who)」の制約 |
どのような取引関係 | 「⑥何を(what)」の制約 |
●設問のタイプ:助言(「助言せよ」と書いてあるため)
●論点のレイヤー:経営戦略
●1次知識による解答の切り口:取引先への提案、取引先の分散、独自製品の開発・販売
(抽象化ブロックシートに記載の「下請製造業の生き残り戦略」の枠組みを活用)
●解答の型:①・・②・・③・・により( )の関係を築く。
■第4問設問1
A社の今後の戦略展開にあたって、以下の設問に答えよ。 (設問1) A社は今後の事業展開にあたり、どのような組織構造を構築すべきか、中小企業診断士として50字以内で助言せよ。 |
●制約条件:
A社 | 「①誰が(主語)」の制約 |
今後 | 「②いつ(when)」の制約 |
事業展開にあたり | 「⑤なぜ(why)」の制約 |
どのような組織構造を構築すべき | 「⑥何を(what)」の制約 |
※第4問の「今後の戦略展開」も重要キーワードなので下線を引いておきます。
●設問のタイプ:助言(「助言せよ」と書いてあるため)
●論点のレイヤー:組織構造
●1次知識による解答の切り口:機能別組織、事業部制組織、マトリックス組織
●解答の型:・・・組織とし、( 組織構造のメリット )により( 事業展開 )する。
■第4問設問2
現経営者は、今後5年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。 |
●制約条件:
現経営者 | 「①誰が(主語)」の制約 |
今後5年程度の期間 | 「②いつ(when)」の制約 |
後継者を中心とした組織体制にする | 「⑤なぜ(why)」の制約 |
どのように権限委譲 | 「⑥何を(what)」の制約 |
人員配置 | 「⑥何を(what)」の制約 |
●設問のタイプ:助言(「助言せよ」と書いてあるため)
●論点のレイヤー:組織構造(「後継者と中心とした組織体制にする」の制約条件から)
+人的資源管理(「どのように権限委譲、人員配置」の制約条件から)
●1次知識による解答の切り口:
●解答の型:権限委譲は①・・②・・し、人員配置は①・・②することで( 効果 )する。
【設問文ページへの書き込み】
2-3.与件文解釈
与件文解釈は、所要時間10分ぐらい、累計15~20分ぐらいで行います。
私の解法プロセスでは、与件文を2回通しで読みます。
1回目は全体構成の把握とSWOTのチェック、2回目は設問文と与件文との大まかな対応付けを目的としています。
(1)1回目の通読(SWOTのチェック)
1回目の通読では、各段落に何が書かれているかをザクッと把握することで全体の構成とストーリーを把握します。
また、与件文の中で「強み、弱み、機会、脅威」について書かれている箇所に赤ペンでS、W、O、Tの印を振り、2回目に読む際の助けとしていました。これは「解き方の黄金手順」で紹介されていた方法で、個人的には線を引くよりも印を振る方がしっくり来たのでこれを採用していました。
また、特に気になる箇所はシャープペンシルで下線を引いていました。
SWOTの印を付けた結果は以下のとおりとなりました。
【S:強み】
●第2段落
・同社の苺は、糖度が高いことに加え、大粒で形状や色合いが良く人気を博した
●第3段落
・作り方にこだわった野菜の栽培を始めた
・現経営者を含め農業経験が豊富な従業員が互いにうまく連携し、サツマイモを皮切りに、レタス、トマト、トウモロコシなど栽培する品種を徐々に広げていった
●第4段落
・現経営者が生産を担い、弟は常務取締役として販売やその他の経営管理を担い、二人三脚で経営を行うようになる
・2000年代前半に有機JASとJGAP(農業生産工程管理)の認証を受けた
●第5段落
・同社の栽培するサツマイモを使った洋菓子を共同開発した
・A社のサツマイモは、上品な甘さとホクホクとした食感があり人気商品であった
・地元菓子メーカーと開発した洋菓子は、販売開始早々、地元の百貨店から贈答用としての引き合いが入る人気商品となった
●第8段落
・大手中食業者からの要求水準は厳しかったものの、A社は同社との取引を通じて対応能力を蓄積することができた
●第9段落
・作り手や栽培方法が見える化された商品
●第10段落
・後継者は、大学卒業後、一貫して飲食サービス業で店舗マネジメントや商品開発の業務に従事してきた
・大きな駐車場を併設しており、地元の顧客に加え、噂を聞きつけて買い付けにくる都市部の顧客も取り込んでいる
・オープンカフェ形式による飲食サービス(直営店に併設)を提供するようになった
【W:弱み】
●第6段落
・現経営者は職人気質で、仕事は見て盗めというタイプであった
・従業員間で明確な役割分担がなされていなかった
・A社では、繁忙期は従業員総出でも人手が足りず
・閑散期は逆に人手が余るような状況であった
●第7段落
・従業員の定着が悪く、新規就農者を確保することが難しかった
・農業の仕事は、なかなか定時出社・定時退社で完結できる仕事ではない
・新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった
・帰属意識の高い従業員を確保することが難しかった
・県の農業大学校の卒業生など新卒採用も始めたが、長く働き続けてくれる人材の確保は容易ではなかった
●第8段落
・大手中食業者への対応に忙殺されるあまり、新たな品種の生産が思うようにできていない状況であった
●第10段落
・人手不足が顕著になってきており、生産を兼務する従業員だけでは対応できなくなりつつあった
【O:機会】
●第2段落
・その頃から贈答用果物として地元の百貨店を中心に販売され始めた
●第4段落
・有機野菜の販売業者を見つけることができた
●第8段落
・有機野菜の販売業者が廃業することになり、A社はその事業を土地や施設、既存顧客を含めて譲渡されることになった
・運よく大手中食業者と直接取引する機会を得た
●第9段落
・食の安全志向の高まり
【T:脅威】
●第3段落
・バブル経済崩壊後、贈答用の高級苺の売上高は陰りを見せ始める
●第4段落
・バブル経済崩壊後の収益の減少
・1990年代後半以降、価格競争の影響を受けるようになった
●第8段落
・このコロナ禍にあっても、大手中食業者以外の販売先の売上高は減少した
また、第4問の重要キーワード「今後の戦略展開」に関係しそうな記述があれば、後で見つけやすいようシャープペンシルで下線を引いておきます。
【第4問の「今後の戦略展開」に関係しそうな記述】
●第10段落
・A社は、今後も地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦したいと考えている
●第11段落
・これまで経営の中枢を担ってきた現経営者と常務ともに60歳代後半を迎え、本格的に後継者への世代交代を検討し始める時期に差し掛かっている
(2)2回目の通読(設問文と与件文との対応付け)
私の解法では、2回目に与件文を読む際、6色フリクションマーカーを用いて、与件文の各設問に関係のある段落に各設問と対応付けた色の印を付けて、解答メモに解答骨子をまとめる際に与件文の読み込むべき段落が直感的に分かるようにしていました。
ここでポイントとなるのは、記載に線を引くだけでなく、段落番号にマーカーで印を付けることで、段落単位で設問文と与件文を対応付けしておくことです。
【第1問(強み):ピンク】
制約条件の「株式会社化(法人化)する以前」から、第7段落までを対象として、A社の強みに関連する内容の段落に印を付けます。
●マーカーで段落番号に印を付けた段落:第2・3・4・5段落
【第1問(弱み):バイオレット】
制約条件の「株式会社化(法人化)する以前」から、第7段落までを対象として、A社の弱みに関連する内容の段落に印を付けます。
●マーカーで段落番号に印を付けた段落:第6・7段落
【第2問:オレンジ】
制約条件から、新規就農者の獲得と定着について記載されている段落(第7段落)と、人事管理上の問題点について記載されている段落(第6段落)に印を付けます。
●マーカーで段落番号に印を付けた段落:第6・7段落
【第3問:イエロー】
制約条件から、取引先との取引について記載されている段落に印を付けます。
●マーカーで段落番号に印を付けた段落:第6・8・9段落
【第4問設問1:グリーン】
制約条件から、今後の事業展開に関する問題点や課題について記載されている段落に印を付けます。
●マーカーで段落番号に印を付けた段落:第6・7・8・10段落
【第4問設問2:ブルー】
制約条件から、後継者への権限委譲について記載されている段落(第10・11段落)と、人員配置について記載されている段落(第6・9・10段落)に印を付けます。
●マーカーで段落番号に印を付けた段落:第6・9・10・11段落
【与件文解釈での与件文への書き込み】
2-4.解答メモへの解答骨子作成
私の解法プロセスでは、このプロセスを重要視しています。所要時間25~30分ぐらい、累計45分を目安に行います。
ここでは、設問解釈で立てた初期仮説を基に与件文の情報から仮説検証を行い、各設問に対応した解答要素を選択して解答メモ上に解答骨子を作成します。
(1)解答メモ上で設問別の記入欄を区切る
令和4年度の事例Ⅰは設問数が全部で5つなので、シャープペンシルで解答メモのエリアを大体5等分します。
なお、2次試験本番の問題用紙はB5サイズなので、事例演習を行う際は同じくB5サイズの紙を用意して解答メモにしましょう。
(2)設問間の大まかな関連を把握し解答順序を決める
事例Ⅰ~Ⅲでは、基本的に設問文と与件文は一つの大きなストーリーを構成しています。
第一部でも解説したとおり、事例Ⅰでは「既存事業から新規事業へのドメイン再定義を、組織制度や人事制度の改善により実現する」というストーリーになっていることが多いです。ただし、令和5年度では傾向が変わっていることもありえます。
令和4年度の事例Ⅰでは、次の図のような全体像をイメージしてみました。
解答順序については、「自分にとって確実に点を取れそうな問題を先に解答し、難しくて時間切れになる恐れのある問題を後回しにする」という考え方で決めます。
令和4年度事例Ⅰの場合は、情報整理の問題は確実に点を取りたいので時間切れを避けたいことと、第2問以降は全て助言問題であることから、問題順どおり、①第1問、②第2問、③第3問、④第4問設問1、⑤第4問設問2、の順番とします。
ただし、解答骨子を作成する中で自分にとって難しい問題であることが判明した場合は、後から解答順序を変更しても構いません。
(3)第1問の解答骨子作成
まずは、(株式会社化する以前の)強みから考えます。
マーカーで印を付けた第2~第5段落から、A社の強みに関する記載にマーカーで線を引きます。
●第3段落
・作り方にこだわった野菜の栽培
・農業経験が豊富な従業員が互いにうまく連携し
・栽培する品種を徐々に広げていった
●第4段落
・有機JASとJGAP(農業生産工程管理)の認証
●第5段落
・地元の菓子メーカーと連携し、同社の栽培するサツマイモを使った洋菓子を共同開発
・この洋菓子は、地域の新たな特産品としての認知度を高めた
【解答骨子の作成】
以上の記載を元に、解答骨子を解答メモに書いてみます。
第1問は強みと弱みの合計で100字しかなく、解答要素として全てを書くのは無理なので、ここは第3段落と第4段落の内容に絞り込むことにしました。
第5段落の内容を解答要素として採用しなかった理由は、共同開発した洋菓子が人気商品となった理由が与件文の記載から「もともと、A社のサツマイモは、上品な甘さとホクホクとした食感があり人気商品であった」と解釈できるため、VRIO分析の観点から共同開発自体は強み(競争優位の要件)として弱いと考えたためです。
●強みの解答骨子
①作り方にこだわり、有機JASとJGAPの認証を受けた野菜の栽培
②農業経験が豊富な従業員の連携による栽培品種の拡大
次に(株式会社化する以前の)弱みについて考えます。
マーカーで印を付けた第6~第7段落から、A社の弱みに関する記載にマーカーで線を引きます。
●第6段落
・従業員間で明確な役割分担がなされていなかった
・繁忙期は従業員総出でも人手が足りず
・閑散期は逆に人手が余るような状況
●第7段落
・従業員の定着が悪く、新規就農者を確保することが難しかった
【解答骨子の作成】
以上の記載を元に、解答骨子を解答メモに書いてみます。
●弱みの解答骨子
①従業員間に明確な役割分担が無い
②繁忙期と閑散期の人手の調整が難しい
③従業員の定着が悪く、新規就農者の確保が難しい
(4)第2問の解答骨子作成
マーカーで印を付けた各段落から、問われている事項である「新規就農者の獲得と定着」に関する記載にマーカーで線を引きます。
●第6段落
・現経営者は職人気質で、仕事は見て盗めというタイプであった
・従業員間で明確な役割分担がなされていなかった
●第7段落
・なかなか定時出社・定時退社で完結できる仕事ではない
・新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった
・農業未経験者にも中途採用の門戸を開いていたが、帰属意識の高い従業員を確保することが難しかった
・県の農業大学校の卒業生など新卒採用も始めたが、長く働き続けてくれる人材の確保は容易ではなかった
これらの記載に基づき、サハホイヒの枠組み(フレームワーク)で施策の方向性を考えてみます。
・サ(採用):採用時におけるA社の魅力の訴求
・ハ(配置):(特に無し)
・ホ(報酬):(特に無し)
・イ(育成):役割分担の明確化、未経験者への教育の充実、地域の農業関係者との関係づくり
・ヒ(評価):(特に無し)
【解答骨子の作成】
以上の記載を元に、施策と効果を箇条書きで書いてみます。
●施策の解答骨子
①採用活動として農作業体験を行い農業の魅力を訴求する
②役割分担を明確にして未経験者への教育を充実し
③地域の農業関係者との関係づくりの機会を設ける
●効果の解答骨子
・従業員の帰属意識を高め定着を図る
(5)第3問の解答骨子作成
マーカーで印を付けた各段落から、問われている事項である「大手中食業者との取引関係」に関する記載にマーカーで線を引きます。
なお「中食」(なかしょく)とは外食と内食を除く食事の形態を意味し、具体的には以下の表のとおりです。
外食 | レストランや宿泊施設等での食事の提供 |
中食 | 調理済み食品(弁当・惣菜等)の持ち帰り販売 |
内食 | 家庭内等での食材の調理による食事 |
●第6段落
・主要な取引先からは、安定した品質と出荷が求められていた
●第8段落
・大手中食業者からの要求水準は厳しかったものの、A 社は同社との取引を通じて対応能力を蓄積
・大手中食業者からの信頼も増し、売上高の依存割合が年々増加
・大手中食業者への対応に忙殺されるあまり、新たな品種の生産が思うようにできていない状況
●第9段落
・自社工場では、外部取引先からパン生地を調達し、自社栽培の新鮮で旬の野菜(トマトやレタスなど)やフルーツを使ったサンドイッチや総菜商品などを製造し、既存の大手中食業者を含めた複数の業者に卸している
これらの記載に基づき、1次知識から「下請製造業の生き残り戦略」(取引先への提案、取引先の分散、独自製品の開発・販売)の枠組みを使って施策の方向性を考えてみます。
・取引先への提案:大手中食業者へ新たな品種や加工食品の取引を提案する
・取引先の分散:食品加工分野で新たな取引先を開拓し大手中食業者への依存度を下げる
・独自製品の開発・販売:大手中食業者との取引を通じて蓄積した対応能力を生かして、新たな品種を生産する
【解答骨子の作成】
以上の記載を元に、施策と効果を箇条書きで書いてみます。
●施策の解答骨子
①大手中食業者との取引で蓄積された対応能力を生かして新たな品種を生産し
②大手中食業者へ新たな品種や加工食品の取引を提案し
③食品加工部門で複数業者との取引を拡大することで
●効果の解答骨子
・大手中食業者との関係を強化しながら売上依存度を下げる
(6)第4問設問1の解答骨子作成
マーカーで印を付けた各段落から、問われている事項である「今後の事業展開に関する問題点や課題」に関する記載にマーカーで線を引きます。
●第6段落
・従業員間で明確な役割分担がなされていなかった
・繁忙期は従業員総出でも人手が足りず
・閑散期は逆に人手が余るような状況
●第10段落
・人手不足が顕著になってきており、生産を兼務する従業員だけでは対応できなくなりつつあった
・A社は、今後も地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦したいと考えている
【解答骨子の作成】
以上の記載を元に、文字数50字を意識しながら施策と効果の解答骨子を書いてみます。
●施策の解答骨子
・農業、食品加工、直営店の機能別組織にする
●効果の解答骨子
・専門性を高めることで役割分担を明確化し、新たな分野に挑戦する
(7)第4問設問2の解答骨子作成
マーカーで印を付けた各段落から、問われている事項である「権限委譲」と「人員配置」に関する記載にマーカーで線を引きます。
なお、権限委譲とは後継者への権限委譲だけではなく、従業員への権限委譲も含まれます。
●第6段落
・現経営者は職人気質で、仕事は見て盗めというタイプであった
●第9段落
・直営店や食品加工の分野
・これらの業務は、常務が中心となって5名の生産に従事する若手従業員と5名のパート従業員が兼任の形で従事している
●第10段落
・現在、直営店は、昨年入社した常務の娘(A社後継者)が担当している。後継者は、大学卒業後、一貫して飲食サービス業で店舗マネジメントや商品開発の業務に従事してきた。農業については門外漢であったものの、現経営者や常務からの説得もあり、40 歳の時に入社した
・後継者が若手従業員からの提案を上手に取り入れ、搾りたてのトマトジュース、苺ジャムなどの商品を開発し、販売にこぎ着けている
・最近、若手従業員の提案で、オープンカフェ形式による飲食サービス(直営店に併設)を提供するようになった
●第11段落
・これまで経営の中枢を担ってきた現経営者と常務ともに60歳代後半を迎え、本格的に後継者への世代交代を検討し始める時期に差し掛かっている
また、第4段落にある、現体制に関する記載についてもマーカーで線を引きます。
●第4段落
・現経営者が生産を担い、弟は常務取締役として販売やその他の経営管理を担い、二人三脚で経営を行うようになる
【解答骨子の作成】
これらの記載に基づき、権限委譲と人員配置の切り口で、後継者と従業員それぞれに対する施策の解答骨子を作成します。
なお、効果については設問文に「今後5年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にする」と書いてあるため解答には書きません。
●後継者への権限委譲、人員配置の解答骨子
①直営店以外に食品加工や農業の経験も積ませる
②常務が経営管理の教育を行う
③実績を積ませた後に全体の権限を委譲する
●従業員への権限委譲、人員配置の解答骨子
・各部門へ責任者を配置する
・責任者への権限委譲により後継者を補佐する人材を育成する
(8)全体の一貫性のチェック
全問の解答骨子作成後、残り時間に余裕がある場合は、第1問の強み・弱みと第2問以降の施策との一貫性を確認し、必要に応じて解答骨子を見直します。
●強みの一貫性
強みに関しては、一貫性を意識する必要があるのは第3問ぐらいだと思います。
強みの「②農業経験が豊富な従業員の連携による栽培品種の拡大」と、第3問の解答の「新たな品種を生産」は一貫性があるので良しとします。
●弱みの一貫性
弱みに関しては、一貫性を意識する必要があるのは第2問と第4問です。
「①従業員間に明確な役割分担が無い」は、第2問および第4問設問1との一貫性があるので良しとします。
「③従業員の定着が悪く、新規就農者の確保が難しい」は、第2問で問われていることそのものなので良しとします。
「②繁忙期と閑散期の人手の調整が難しい」は、第2問および第4問との一貫性がありませんが、他に弱みの解答要素として適当なものが無いので、このままとします。
【解答骨子作成時の与件文と設問文】
【解答メモのイメージ】
※注:本番での解答メモは、時短のため自分だけに分かるような殴り書きで書いています。
2-5.解答用紙への解答記入
このプロセスでは、解答メモの解答骨子を基に、指定字数で解答用紙のマス目に解答を記入します。所要時間35分、累計80分を目安に行います。
解答記入の順序も、解答骨子と同じく①第1問、②第2問、③第3問、④第4問設問1、⑤第4問設問2、の順番とします。
(1)第1問の解答(100字以内)
A社の強みと弱みについて書くことを求められていますので、強み50字、弱み50字の配分で、それぞれの解答要素2つぐらいで書いてみます。
解答骨子に記載の弱みのうち「②繁忙期と閑散期の人手の調整が難しい」は、第2問以降との一貫性がないため文字数の関係から記載を省略しました。
●解答
強みは①作り方にこだわり、有機JASとJGAPの認証を受けた野菜の栽培②農業経験豊富な従業員の連携による栽培品種の拡大。弱みは①従業員間に明確な役割分担が無く②従業員の定着が悪く、新規就農者の確保が難しい点。(104字:英字を1マスに2文字書き、最後の句点を文字と同じマスに書く場合100マス)
(2)第2問の解答(100字以内)
100字で施策について書くことを求められていますので、解答骨子に記載の解答要素3つと効果で文字数に合わせて書いてみます。
●解答
施策は①採用活動として農作業体験を行い農業の魅力を訴求し②役割分担を明確にして未経験者への教育を充実し③地域の農業関係者との関係づくりの機会を設けることで、新規就農者の帰属意識を高め定着を図る。(97字)
(3)第3問の解答(100字以内)
100字で取引関係について書くことを求められていますので、解答骨子に記載の解答要素3つと効果で文字数に合わせて書いてみます。
100字に収まるよう、設問解釈時の解答の型とは違う構成に変えています。
●解答
大手中食業者との取引で蓄積された対応能力を生かして新たな品種を生産し、大手中食業者への新品種や加工食品の取引提案により関係を強化するとともに、複数の業者との取引を拡大することで売上依存度を下げる。(98字)
(4)第4問設問1の解答(50字以内)
50字で組織構造について書くことを求められていますので、解答骨子に記載の施策と効果で文字数に合わせて書いてみます。
●解答
農業、食品加工、直営店の機能別組織とし、専門性を高めることで役割分担を明確化し新たな分野へ挑戦する。(50字)
(5)第4問設問2の解答(100字以内)
100字で後継者と従業員それぞれへの権限委譲と人員配置について書くことを求められていますので、解答骨子の記載の解答要素を文字数に合わせて書いてみます。
与件文解釈の結果として、設問解釈時の解答の型とは違う構成に変えています。
●解答
後継者に対し①直営店以外の食品加工や農業を経験させ②常務が経営管理の教育を行い③実績を積ませた後に全体の権限を委譲する。各部門に責任者を配置し、責任者への権限委譲により後継者を補佐する人材を育成する。(100字)
■第三部 再現答案を用いた令和4年度事例Ⅰの解説
最後に、私を含めた令和4年度の中小企業診断士2次試験受験者の方々からご提供いただいた再現答案を分析して、実際にどれくらい書ければ60点取れるのかを解説したいと思います。
私(かものしか)の令和4年度事例Ⅰの得点は74点でした。また、令和4年度合格者である計3名の方に私からお願いのうえ再現答案の提供を受けました。この4人の解答を比較して解説します。
なお、第二部で書いた解答は解答プロセスの説明のために新たに書いた解答のため、私の再現解答とは別物です。混同しないようお願いいたします。
ご提供者 | ご紹介 |
①ごまさん (開示得点77点) | 令和4年度に2回目の2次試験受験で合格されたお方です。 令和4年度の2次筆記試験で283点取られた優秀なお方です。 |
②かものしか(筆者) (開示得点74点) | 令和4年度にストレート合格のうえ、タキプロで14期として活動中です。 タキプロではブログのほか、大阪でのリアル勉強会にも参加しており、 受験当時よりも今の方が2次試験への理解が進んでいると思っています。 |
③ROBINさん (開示得点61点) | 令和4年度にストレート合格されたお方です。 私が受験生時代に唯一参加した勉強会である スタディング有志の自主勉強会(最終回)で同じグループとなり、 この方から多くの気付きと刺激を受けたことが 私の合格につながったと思っております。 |
④こちょびさん (開示得点49点) | 令和4年度に2回目の2次試験受験で合格されたお方です。 私と同じくタキプロに14期として参加されており、 主にYoutubeチームで活動されておられます。 |
1.再現答案のタテの比較(第1問~第4問の一貫性チェック)
再現答案の比較方法として、次の2つがあります。
①タテの比較
・1人の解答について、一貫性のある解答ができているか、同一事例内で複数の設問の解答を比較する。
②ヨコの比較
・個別の設問について、複数人の設問を比較する。
通常、勉強会では「②ヨコの比較」しかしないことが多いですが、私の意見として、タテの比較とヨコの比較はどちらも実力アップに役立つと思います。
ということで、まずはタテの比較から行っていきます。
(1)高得点答案(77点:ごまさん)
●第1問
強みは①経験豊富な従業員の連携とパート社員の活用体制②JASとJGAPの認証を受けた農産物③親族による二人三脚の経営体制。弱みは①経営が複雑化し役割分担が不明瞭②繁閑による人余りと人不足③従業員の定着が悪い。(104字:英字を1マスに2文字書き、最後の句点を文字と同じマスに書く場合100マス)
●第2問
①農業大学校の学生にインターンシップを活用し農業の魅力を伝え②ジョブローテーションを通し地域の農業関係者との関係性を構築し③フレックスタイムやシフト勤務の活用で業務の負荷を分散して従業員の定着を図る。(100字)
●第3問
大手中食業者対応の部門を新設して役割分担を明確にし①定期的ミーティングで情報交換を進めて顧客ニーズに沿った商品開発を進める②高まる要求水準への対応能力を強化していく。以上で事業拡大と売上の安定を図る。(100字)
●第4問設問1
生産販売、直営店、食品加工の事業部制とし、利益責任を明確にし迅速な意志決定で事業拡大と事業承継を進める。(52字:3つ目(21文字目)の読点と最後の句点を文字と同じマスに書く場合50マス)
●第4問設問2
後継者の飲食サービス業の店舗マネジメントや商品開発の経験を生かし食品加工や直営店の責任者として次世代経営者の経験を積み、徐々に生産販売、経営の権限委譲を行う。人員配置は役割分担を明確にし適材適所で配置。(101字:最後の句点を文字と同じマスに書く場合100マス)
タテの比較では各設問の解答の一貫性を見るので、設問文無しの解答のみを並べて比較します。まずは高得点のごまさんからです。
ごまさんの一貫性チェックの結果は以下のとおりです。
強みについては○がありませんでした。ただし、強みに○が無いのは4人全員でした。
弱みについては、「①経営が複雑化し役割分担が不明瞭」と「③従業員の定着が悪い」で一貫性が取れているのが良かったです。一方、「②繁閑による人余りと人不足」については一貫性が取れていませんでした。
(凡例)○:直接的に一貫性あり、△:間接的に一貫性あり、-:一貫性なし |
●第1問の強みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ①経験豊富な従業員の連携とパート社員の活用体制 | |
第3問 | △ | ②高まる要求水準への対応能力を強化していく |
●第1問の強みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ②JASとJGAPの認証を受けた農産物 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の強みの解答③と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ③親族による二人三脚の経営体制 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ①経営が複雑化し役割分担が不明瞭 | |
第3問 | 〇 | 大手中食業者対応の部門を新設して役割分担を明確にし |
第4問設問2 | 〇 | 人員配置は役割分担を明確にし適材適所で配置 |
●第1問の弱みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ②繁閑による人余りと人不足 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答③と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ③従業員の定着が悪い | |
第2問 | 〇 | ①農業大学校の学生にインターンシップを活用し農業の魅力を伝え ②ジョブローテーションを通し地域の農業関係者との関係性を構築し ③フレックスタイムやシフト勤務の活用で業務の負荷を分散して従業員の定着を図る |
(2)高得点答案(74点:かものしか)
●第1問
強みは①作り方にこだわった野菜の栽培②農業経験豊富な従業員が互いにうまく連携し③有機JASとJGAPの認証。弱みは①従業員に明確な役割分担が無く②従業員の定着が悪く、帰属意識の高い従業員の確保が難しいこと。(103字:英字を1マスに2文字書く場合100マス)
●第2問
必要な施策は①コンセプトを打ち出した採用活動を行い②従業員間で役割分担を明確化し、需給に応じたパートの採用を行い③地域の農業関係者との関係づくりの機会を設けることで、従業員のモラールを高め定着を図る。(100字)
●第3問
①大手中食業者からの要求水準に対応し、対応能力を蓄積しながら新品種生産の余力を確保し②食品加工や直営店で複数の業者と取引することで、大手中食業者との関係を維持しながら売上依存度を下げる。(93字)
●第4問設問1
直営店や食品加工と農業を分離した事業別組織とする。理由は、意思決定の迅速化と収支責任の明確化のため。(50字)
●第4問設問2
直営店の部門長として権限委譲し、実績を積ませた後に全体の権限を委譲する。人員配置は、後継者を補佐する人材を付け、その人材を部門間で異動することで各部門の連携を確保し、事業間のシナジーを確保する。(97字)
次は同じく70点台の高得点である私の答案です。
強みについては、ごまさんと同様に○がありませんでした。
弱みについては、①と②の両方ともに一貫性が取れていました。ただし、「①従業員に明確な役割分担が無く」は第4問設問1との一貫性が取れていれば更に良かったです。
(凡例)○:直接的に一貫性あり、△:間接的に一貫性あり、-:一貫性なし |
●第1問の強みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ①作り方にこだわった野菜の栽培 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の強みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ②農業経験豊富な従業員が互いにうまく連携し | |
第3問 | △ | ①大手中食業者からの要求水準に対応し、対応能力を蓄積しながら新品種生産の余力を確保し |
●第1問の強みの解答③と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ③有機JASとJGAPの認証 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ①従業員に明確な役割分担が無く | |
第2問 | 〇 | ②従業員間で役割分担を明確化し |
●第1問の弱みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ②従業員の定着が悪く、帰属意識の高い従業員の確保が難しいこと | |
第2問 | 〇 | 必要な施策は①コンセプトを打ち出した採用活動を行い ②従業員間で役割分担を明確化し、需給に応じたパートの採用を行い ③地域の農業関係者との関係づくりの機会を設けることで、 従業員のモラールを高め定着を図る |
(3)ギリギリ合格答案(61点:ROBINさん)
●第1問
強みは①作り方にこだわった野菜②甘さと食感が人気のサツマイモを共同開発した洋菓子が特産品として認知度が高い点。弱みは①従業員間で明確な役割分担がなく②天候の影響や季節的な繁閑により人手調整が難しい点。(100字)
●第2問
施策は①新卒・中途採用により幅広く人材を獲得し②OJTによる教育でコミュニケーションを円滑化し、一体感を醸成し③表彰制度や公平な評価制度の導入で士気向上し、定着率を高める。(84字)
●第3問
助言は①厳しい要求に対する対応能力を高め、信頼関係を築き、対等に交渉できるようにし②大手中食業者への依存度が高まらないよう留意しながら取引関係を維持し、デリバリー事業を拡大し売上向上を図る。(95字)
●第4問設問1
明確な役割分担により各事業の専門性を高めつつ人材流動し、繁閑に応じた人手不足に対応する。(44字)
●第4問設問2
助言は①若手や直営店従業員に権限委譲し、消費者の声を基にした商品開発や新しい分野への挑戦を促し②適材適所の配置転換やジョブローテーションによりモラール向上し、多様な人材を活用し組織活性化を図る。(97字)
次はROBINさんの61点の再現答案です。
強みについては、ごまさん、私と同じく○がありませんでした。なお、②で共同開発について書いているので、第3問で大手中食業者との共同開発について書くことで一貫性を取れていないのは惜しいと思いました。
弱みについては①と②の両方ともに一貫性が取れていました。
(凡例)○:直接的に一貫性あり、△:間接的に一貫性あり、-:一貫性なし |
●第1問の強みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ①作り方にこだわった野菜 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の強みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ②甘さと食感が人気のサツマイモを共同開発した洋菓子が特産品として認知度が高い点 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ①従業員間で明確な役割分担がなく | |
第4問設問1 | 〇 | 明確な役割分担により各事業の専門性を高めつつ人材流動し、繁閑に応じた人手不足に対応する |
●第1問の弱みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ②天候の影響や季節的な繁閑により人手調整が難しい点 | |
第4問設問1 | 〇 | 明確な役割分担により各事業の専門性を高めつつ人材流動し、繁閑に応じた人手不足に対応する |
(4)不合格答案(49点:こちょびさん)
●第1問
強みは①有機JASとJGAPの認証取得②高品質な有機野菜と洋菓子が贈答用として地元の特産品となっていること。弱みは①従業員間の役割分担がされていないこと②需給調整問題③従業員の定着が悪いこと。(96字)
●第2問
施策は①若手従業員の活躍をPRし、新卒社員を採用②後継者の例をPRし、Uターン中途社員を採用③適切な配置と能力開発を行い④適切な評価で士気を向上させ⑤貢献意欲を向上させることにより、従業員の定着を図る。(101字:英字を1マスに2文字書く場合99マス)
●第3問
大手中食業者と協力し①人にやさしく環境にやさしい農業を打ち出し、高品質野菜を使用した製品を開発し販売する②協業で新たな品種を開発生産し中食業者が販売する。以上により提携関係を強化し、取引を継続する。(99字)
●第4問設問1
直営店と食品加工分野を後継者に一任し、育成しながら経営成績を明確化できる、事業部制組織にするべき。(49字)
●第4問設問2
直営店の部門責任者として組織を運営することで、次期社長としての育成とスムーズな事業承継を行えるようにする。若手を積極的に活用、能力に応じた適切な配置を行い、従業員の士気向上と組織文化の変革を図る。(98字)
次はこちょびさんの49点の再現答案です。
強みについては、他の3人と同じく○がありませんでした。
弱みについては、③だけ一貫性が取れていました。
「①従業員間の役割分担がされていないこと」が第2問以降に書けておらず一貫性が取れていませんが、これに関して他の3人は書けており、得点の差につながっていると思います。
(凡例)○:直接的に一貫性あり、△:間接的に一貫性あり、-:一貫性なし |
●第1問の強みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ①有機JASとJGAPの認証取得 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の強みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(強み) | ②高品質な有機野菜と洋菓子が贈答用として地元の特産品となっていること | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答①と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ①従業員間の役割分担がされていないこと | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答②と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ②需給調整問題 | |
第2問~第4問 | - |
●第1問の弱みの解答③と、第2問~第4問の解答との一貫性
第1問(弱み) | ③従業員の定着が悪いこと | |
第2問 | 〇 | 施策は①若手従業員の活躍をPRし、新卒社員を採用 ②後継者の例をPRし、Uターン中途社員を採用 ③適切な配置と能力開発を行い ④適切な評価で士気を向上させ ⑤貢献意欲を向上させることにより、従業員の定着を図る。 |
2.再現答案のヨコの比較(個別の設問に対する解答内容の違いのチェック)
それではいよいよ、4人の解答を設問毎に比較します。
2-1.第1問
A社が株式会社化(法人化)する以前において、同社の強みと弱みを 100 字以内で分析せよ。 |
(中小企業診断協会による出題の趣旨)法人化前における内部環境分析に関わる問題である。 |
●ごまさん
強みは①経験豊富な従業員の連携とパート社員の活用体制②JASとJGAPの認証を受けた農産物③親族による二人三脚の経営体制。弱みは①経営が複雑化し役割分担が不明瞭②繁閑による人余りと人不足③従業員の定着が悪い。(104字:英字を1マスに2文字書き、最後の句点を文字と同じマスに書く場合100マス)
●かものしか
強みは①作り方にこだわった野菜の栽培②農業経験豊富な従業員が互いにうまく連携し③有機JASとJGAPの認証。弱みは①従業員に明確な役割分担が無く②従業員の定着が悪く、帰属意識の高い従業員の確保が難しいこと。(103字:英字を1マスに2文字書く場合100マス)
●ROBINさん
強みは①作り方にこだわった野菜②甘さと食感が人気のサツマイモを共同開発した洋菓子が特産品として認知度が高い点。弱みは①従業員間で明確な役割分担がなく②天候の影響や季節的な繁閑により人手調整が難しい点。(100字)
●こちょびさん
強みは①有機JASとJGAPの認証取得②高品質な有機野菜と洋菓子が贈答用として地元の特産品となっていること。弱みは①従業員間の役割分担がされていないこと②需給調整問題③従業員の定着が悪いこと。(96字)
(1)ごまさん(開示得点77点)
強みは①経験豊富な従業員の連携とパート社員の活用体制②JASとJGAPの認証を受けた農産物③親族による二人三脚の経営体制。弱みは①経営が複雑化し役割分担が不明瞭②繁閑による人余りと人不足③従業員の定着が悪い。 |
●強み
「①経験豊富な従業員の連携とパート社員の活用体制」は良いと思います。ただし、後半の「パート社員の活用体勢」については、弱みとして書いている「②繁閑による人余りと人不足」への対応策であるため、強みとしては優先度が低いように思いました。
「②JASとJGAPの認証を受けた農産物」については良いと思います。
「③親族による二人三脚の経営体制」については、私の意見としては強みと言えるか疑問です。なので、点が付いているかどうか分かりません。
●弱み
「①経営が複雑化し役割分担が不明瞭」については、第3問および第4問設問1との一貫性も取れており、良いと思います。
「②繁閑による人余りと人不足」については、第2問以降との一貫性が取れていないのが惜しいと思いました。
「③従業員の定着が悪い」については、第2問で問われていることであり、良いと思います。
(2)かものしか(開示得点74点)
強みは①作り方にこだわった野菜の栽培②農業経験豊富な従業員が互いにうまく連携し③有機JASとJGAPの認証。弱みは①従業員に明確な役割分担が無く②従業員の定着が悪く、帰属意識の高い従業員の確保が難しいこと。 |
●強み
「①作り方にこだわった野菜の栽培」と「③有機JASとJGAPの認証」は良いとは思いますが、どちらも同じ野菜作りについての強みなので、どちらか片方でも点数的には変わらない可能性があります。
「②農業経験豊富な従業員が互いにうまく連携し」も良いと思いますが、第3問との一貫性を意識するなら「栽培品種の拡大」まで書けていれば更に良かったと思います。
●弱み
①と②の両方とも、第2問との一貫性が取れており良いと思います。
(3)ROBINさん(開示得点61点)
強みは①作り方にこだわった野菜②甘さと食感が人気のサツマイモを共同開発した洋菓子が特産品として認知度が高い点。弱みは①従業員間で明確な役割分担がなく②天候の影響や季節的な繁閑により人手調整が難しい点。 |
●強み
「①作り方にこだわった野菜」については良いと思います。
「②甘さと食感が人気のサツマイモを共同開発した洋菓子が特産品として認知度が高い点」についても良いとは思いますが、第3問で共同開発について書けていれば一貫性が取れていて更に良かったと思います。
●弱み
「①従業員間で明確な役割分担がなく」については、第4問設問1との一貫性が取れており良いと思います。
「②天候の影響や季節的な繁閑により人手調整が難しい点」については、第4問設問1との一貫性は取れていますが、人手調整についてはパートのスポット雇用で対応していることから、解答に書いていない「従業員の定着が悪い」の方が弱みとしてより優先度が高いようにも思いました。
(4)こちょびさん(開示得点49点)
強みは①有機JASとJGAPの認証取得②高品質な有機野菜と洋菓子が贈答用として地元の特産品となっていること。弱みは①従業員間の役割分担がされていないこと②需給調整問題③従業員の定着が悪いこと。 |
●強み
「①有機JASとJGAPの認証取得」については良いと思います。
②については、前半の「高品質な有機野菜」は与件文には地元の特産品とまでは書かれておらず、点が付いているか分かりません。また、後半の「洋菓子が贈答用として地元の特産品となっていること」については、洋菓子を共同開発したことまで書けていれば第3問解答の「協業で新たな品種を開発生産し」との一貫性が取れるので惜しいと思いました。
●弱み
「①従業員間の役割分担がされていないこと」は良いのですが、第2問以降の解答との一貫性が取れていないのが惜しいです。
「②需給調整問題」についても、第2問以降の解答との一貫性が取れていません。
「③従業員の定着が悪いこと」は、第2問で問われていることであり、良いと思います。
(5)第1問まとめ
強みについては、高得点のごまさんと私が「経験豊富な従業員の連携」を選んでおり、ROBINさんとこちょびさんが「洋菓子が特産品」を選んでいて、2つに分かれていました。
どちらを選んだ場合も第3問との一貫性が取れているかがポイントだと思うのですが、これに気が付くのが難しく、結果的に前者と後者との点差が付いたのではないかと思います。
弱みについては、解答要素が限られているせいか4人とも大差は無かったですが、こちょびさんだけ第2問以降で「従業員間の役割分担が不明確」への対応について書けていないのが得点の差になっていると思います。
令和4年度事例Ⅰでは、第1問に前年まで無かった内部環境(強み/弱み)分析問題が出題されましたが、毎年第1問で環境分析問題が出題されている事例Ⅱや事例Ⅲと比較すると、第2問以降との一貫性を取るのが難しく感じました。
2-2.第2問
A社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。 |
(中小企業診断協会による出題の趣旨)基盤事業における人材の採用と定着の方法について、助言する能力を問う問題である。 |
●ごまさん
①農業大学校の学生にインターンシップを活用し農業の魅力を伝え②ジョブローテーションを通し地域の農業関係者との関係性を構築し③フレックスタイムやシフト勤務の活用で業務の負荷を分散して従業員の定着を図る。(100字)
●かものしか
必要な施策は①コンセプトを打ち出した採用活動を行い②従業員間で役割分担を明確化し、需給に応じたパートの採用を行い③地域の農業関係者との関係づくりの機会を設けることで、従業員のモラールを高め定着を図る。(100字)
●ROBINさん
施策は①新卒・中途採用により幅広く人材を獲得し②OJTによる教育でコミュニケーションを円滑化し、一体感を醸成し③表彰制度や公平な評価制度の導入で士気向上し、定着率を高める。(84字)
●こちょびさん
施策は①若手従業員の活躍をPRし、新卒社員を採用②後継者の例をPRし、Uターン中途社員を採用③適切な配置と能力開発を行い④適切な評価で士気を向上させ⑤貢献意欲を向上させることにより、従業員の定着を図る。(101字:英字を1マスに2文字書く場合99マス)
(1)ごまさん(開示得点77点)
①農業大学校の学生にインターンシップを活用し農業の魅力を伝え②ジョブローテーションを通し地域の農業関係者との関係性を構築し③フレックスタイムやシフト勤務の活用で業務の負荷を分散して従業員の定着を図る。 |
①が獲得(採用)、②と③が定着のための施策です。
①については「インターンシップ」という1次知識に基づく具体的な施策と「農業の魅力を伝え」という具体的な効果が書けているのが素晴らしいです。
②については「ジョブローテーション」との因果関係はよく分からない感じですが、「地域の農業関係者との関係性を構築し」が第7段落に記載の問題点「新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった」への対応策になっていて良いと思います。
③の「フレックスタイムやシフト勤務の活用」についても、第7段落に記載の問題点「農業の仕事は、なかなか定時出社・定時退社で完結できる仕事ではない」への対応策となっており、要するに労働時間が短い日を柔軟に設けて時間外労働を吸収するということで、良いと思います。
(2)かものしか(開示得点74点)
必要な施策は①コンセプトを打ち出した採用活動を行い②従業員間で役割分担を明確化し、需給に応じたパートの採用を行い③地域の農業関係者との関係づくりの機会を設けることで、従業員のモラールを高め定着を図る。 |
①が獲得(採用)、②と③が定着のための施策です。
①については、「コンセプトを打ち出した」と書いていますが、コンセプトが「『人にやさしく、環境にやさしい農業』というコンセプト」であることが明記できていないので、点が付いているか分かりません。ただし、採点側が甘ければ点が付いている可能性はあります。
②については、これは第6段落に記載の問題点「従業員間で明確な役割分担がなされていなかった」と「需給調整の問題も生じてきた」への対応策になります。前半の「従業員間で役割分担を明確化」には点が付いているかもしれませんが、後半の「需給に応じたパートの採用を行い」には点が付いてないと思います。
③の「地域の農業関係者との関係づくりの機会を設ける」は、第7段落に記載の問題点「新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった」へのおうむ返し対応策ですが、このレベルの解答でも点が付いていると思います。
効果の「従業員のモラールを高め定着を図る」は、何点ぐらい付いているかは分かりませんが良いと思います。ただし、モラールを「帰属意識」と書けていれば更に良かったと思います。
(3)ROBINさん(開示得点61点)
施策は①新卒・中途採用により幅広く人材を獲得し②OJTによる教育でコミュニケーションを円滑化し、一体感を醸成し③表彰制度や公平な評価制度の導入で士気向上し、定着率を高める。 |
①が獲得(採用)、②と③が定着のための施策です。
「①新卒・中途採用により幅広く人材を獲得し」は、既に新卒採用や中途採用は実施済のため、具体的な新しい施策を書かないと点が付かないと思います。
「②OJTによる教育でコミュニケーションを円滑化」と「③表彰制度や公平な評価制度の導入」については、第6段落や第7段落に記載の問題点、特に「新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった」への対応策となっておらず、点が付きにくいと思います。
(4)こちょびさん(開示得点49点)
施策は①若手従業員の活躍をPRし、新卒社員を採用②後継者の例をPRし、Uターン中途社員を採用③適切な配置と能力開発を行い④適切な評価で士気を向上させ⑤貢献意欲を向上させることにより、従業員の定着を図る。 |
①と②が獲得(採用)、③と④と⑤が定着のための施策です。
「①若手従業員の活躍をPRし、新卒社員を採用」は良いと思います。
「②後継者の例をPRし、Uターン中途社員を採用」については、後継者は同族企業の経営者親族であること、また後継者は直営店を担当しており就農者ではないと思われることから、点が付いているか分かりません。
③と④と⑤については、ROBINさんと同様、第6段落や第7段落に記載の問題点、特に「新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった」への対応策となっておらず、点が付きにくいと思います。
(5)第2問まとめ
第2問については、高得点のごまさんと、ROBINさんやこちょびさんとの点差が大きく開いていると思います。
ごまさんの良い部分は「施策が具体的であること」と「施策が第7段落に記載の問題点への対応策になっていること」の2点です。
第2問はいわゆる人事施策系の助言問題であり、「サハホイヒ」の切り口で解答する問題ではありますが、その場合でも得点するためには与件文に寄り添って解答する必要があります。
2-3.第3問
A社は大手中食業者とどのような取引関係を築いていくべきか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。 |
(中小企業診断協会による出題の趣旨)主要取引先との関係の強化と新しい分野の探索について、助言する能力を問う問題である。 |
●ごまさん
大手中食業者対応の部門を新設して役割分担を明確にし①定期的ミーティングで情報交換を進めて顧客ニーズに沿った商品開発を進める②高まる要求水準への対応能力を強化していく。以上で事業拡大と売上の安定を図る。(100字)
●かものしか
①大手中食業者からの要求水準に対応し、対応能力を蓄積しながら新品種生産の余力を確保し②食品加工や直営店で複数の業者と取引することで、大手中食業者との関係を維持しながら売上依存度を下げる。(93字)
●ROBINさん
助言は①厳しい要求に対する対応能力を高め、信頼関係を築き、対等に交渉できるようにし②大手中食業者への依存度が高まらないよう留意しながら取引関係を維持し、デリバリー事業を拡大し売上向上を図る。(95字)
●こちょびさん
大手中食業者と協力し①人にやさしく環境にやさしい農業を打ち出し、高品質野菜を使用した製品を開発し販売する②協業で新たな品種を開発生産し中食業者が販売する。以上により提携関係を強化し、取引を継続する。(99字)
(1)ごまさん(開示得点77点)
大手中食業者対応の部門を新設して役割分担を明確にし①定期的ミーティングで情報交換を進めて顧客ニーズに沿った商品開発を進める②高まる要求水準への対応能力を強化していく。以上で事業拡大と売上の安定を図る。 |
第3問に関しては、ごまさんはあまり得点が付いていない可能性があります。
「大手中食業者対応の部門を新設して役割分担を明確にし」については、第1問との一貫性が取れているのは良いですが、次の2つの理由から点数が付いているかは不明です。
・理由1:問われているのは組織構造ではなく取引関係であるため
・理由2:与件文の第8段落に「A社は同社との取引を通じて対応能力を蓄積することができた」とあり、大手中食業者との取引のために部門新設の必要があるか不明であるため
①と②については、大手中食業者との関係維持または強化の面では良いと思います。 ただし、与件文第8段落の「売上高の依存割合が年々増加していった」および第10段落の「新たな分野に挑戦したいと考えている」への対応としては不十分ではないかと思います。
(2)かものしか(開示得点74点)
①大手中食業者からの要求水準に対応し、対応能力を蓄積しながら新品種生産の余力を確保し②食品加工や直営店で複数の業者と取引することで、大手中食業者との関係を維持しながら売上依存度を下げる。 |
「①大手中食業者からの要求水準に対応し、対応能力を蓄積しながら新品種生産の余力を確保し」については、与件文第8段落の「大手中食業者への対応に忙殺されるあまり、新たな品種の生産が思うようにできていない」に対して、おうむ返しながら対応を書けているのは良いと思います。
ただし、あくまでも大手中食業者からの要求への対応に留まっており、対等な関係の構築までは書けていません。
「②食品加工や直営店で複数の業者と取引すること」は、後述の「大手中食業者の売上依存度を下げる」ための具体策を書けているのは良いと思います。ただし、直営店は一般消費者が顧客なので書かない方が良いと思います。
効果の「大手中食業者との関係を維持しながら売上依存度を下げる」は、与件文第8段落の「売上高の依存割合が年々増加していった」への対応となっており、良いと思います。
(3)ROBINさん(開示得点61点)
助言は①厳しい要求に対する対応能力を高め、信頼関係を築き、対等に交渉できるようにし②大手中食業者への依存度が高まらないよう留意しながら取引関係を維持し、デリバリー事業を拡大し売上向上を図る。 |
「①厳しい要求に対する対応能力を高め、信頼関係を築き、対等に交渉できるようにし」については大手中食業者との関係強化について書いており、良いと思います。
「②大手中食業者への依存度が高まらないよう留意しながら取引関係を維持し」についても、与件文第8段落の「売上高の依存割合が年々増加していった」への対応が書けており、良いと思います。
「デリバリー事業を拡大し」については、(既存の)デリバリー事業はあくまでもA社ではなく大手中食業者の事業です。そのため、A社の「新品種生産」または「新たな分野」に関して書ければ更に良かったと思います。
また、前述のとおり、第1問で強みとして共同開発について書くのであれば、第3問でも共同開発について書けていれば更に良かったと思います。
(4)こちょびさん(開示得点49点)
大手中食業者と協力し①人にやさしく環境にやさしい農業を打ち出し、高品質野菜を使用した製品を開発し販売する②協業で新たな品種を開発生産し中食業者が販売する。以上により提携関係を強化し、取引を継続する。 |
「①人にやさしく環境にやさしい農業を打ち出し、高品質野菜を使用した製品を開発し販売する」については、既に与件文第4段落に書かれている内容と変わらないため、点が付いているかは分かりません。
「②協業で新たな品種を開発生産し中食業者が販売する」については、与件文第8段落の「新たな品種の生産が思うようにできていない」への対応となっており、良いと思います。
「以上により提携関係を強化し、取引を継続する」については、大手中食業者との関係強化について書いているのは良いと思います。大手中食業者への売上依存度の低下についても書けていれば更に良かったと思います。
(5)第3問まとめ
第3問では、出題の趣旨から類推すると「大手中食業者との関係を強化」と「新しい分野の探索により大手中食業者への依存度を下げる」の両面について書く必要があると思いますが、この4人は全員が全ての要素について書けておらず、なかなか難しい問題だったと思います。
2-4.第4問設問1
A社の今後の戦略展開にあたって、以下の設問に答えよ。 (設問1) A社は今後の事業展開にあたり、どのような組織構造を構築すべきか、中小企業診断士として50字以内で助言せよ。 |
(中小企業診断協会による出題の趣旨)経営戦略の展開にあたっての経営組織の構造について、助言する能力を問う問題である。 |
●ごまさん
生産販売、直営店、食品加工の事業部制とし、利益責任を明確にし迅速な意志決定で事業拡大と事業承継を進める。(52字:3つ目(21文字目)の読点と最後の句点を文字と同じマスに書く場合50マス)
●かものしか
直営店や食品加工と農業を分離した事業別組織とする。理由は、意思決定の迅速化と収支責任の明確化のため。(50字)
●ROBINさん
明確な役割分担により各事業の専門性を高めつつ人材流動し、繁閑に応じた人手不足に対応する。(44字)
●こちょびさん
直営店と食品加工分野を後継者に一任し、育成しながら経営成績を明確化できる、事業部制組織にするべき。(49字)
(1)ごまさん(開示得点77点)
生産販売、直営店、食品加工の事業部制とし、利益責任を明確にし迅速な意志決定で事業拡大と事業承継を進める。 |
組織構造として事業部制組織を選択しており、そのメリットとして「利益責任を明確にし」と「迅速な意思決定」を挙げています。また、その効果として「事業拡大と事業承継」を挙げています。
事業部制組織のメリットについては1次知識のとおりで良いと思います。
メリットと効果の因果関係についても問題ないと思います。
効果についても、事業拡大は与件文第10段落の「新たな分野に挑戦したいと考えている」との関連があり、事業承継は与件文第11段落の「本格的に後継者への世代交代を検討し始める時期に差し掛かっている」との関連があるので良いと思います。
(2)かものしか(開示得点74点)
直営店や食品加工と農業を分離した事業別組織とする。理由は、意思決定の迅速化と収支責任の明確化のため。 |
組織構造として「事業別組織」と書いています。これは、事業部制組織と書くべきところを本当に誤って書いてしまいました。
理由として、事業部制組織のメリットである「意思決定の迅速化と収支責任の明確化」を書いていますが、効果を書いておらず、これで何点付いているかは不明です。
(3)ROBINさん(開示得点61点)
明確な役割分担により各事業の専門性を高めつつ人材流動し、繁閑に応じた人手不足に対応する。 |
具体的な組織構造を書いておらず、代わりに「明確な役割分担により各事業の専門性を高め」と書いています。これは「機能別組織」と解釈することも可能だと思います。
「明確な役割分担により各事業の専門性を高め」の効果については書かれていません。 一方、後半に「人材流動し、繁閑に応じた人手不足に対応する」と書かれています。これは第1問の弱みとの一貫性はありますが、与件文第10段落の「新たな分野に挑戦したいと考えている」との関連があまり無いため、点数が付いているかは不明です。
(4)こちょびさん(開示得点49点)
直営店と食品加工分野を後継者に一任し、育成しながら経営成績を明確化できる、事業部制組織にするべき。 |
組織構造として事業部制組織を選択しており、そのメリットとして「直営店と食品加工分野を後継者に一任し、育成」と「経営成績を明確化できる」を挙げています。
事業部制組織のメリットについては1次知識のとおりで良いと思います。
効果については「後継者の育成」と解釈できますが、後継者への承継は設問2で問われており、設問1では今後の事業展開について問われているため、点数はあまり付いていない可能性があります。
(5)第4問設問1まとめ
この設問では、今後の事業展開として与件文第10段落の「今後も地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦したいと考えている」に沿った回答ができるかがポイントだと思います。
それに一番近かったのが、効果として「事業拡大」と書いていたごまさんの解答であり、残り3人との点差につながっていたと思います。
2-5.第4問設問2
現経営者は、今後5年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。 |
(中小企業診断協会による出題の趣旨)円滑な次世代経営体制への移行プロセスについて、助言する能力を問う問題である。 |
●ごまさん
後継者の飲食サービス業の店舗マネジメントや商品開発の経験を生かし食品加工や直営店の責任者として次世代経営者の経験を積み、徐々に生産販売、経営の権限委譲を行う。人員配置は役割分担を明確にし適材適所で配置。(101字:最後の句点を文字と同じマスに書く場合100マス)
●かものしか
直営店の部門長として権限委譲し、実績を積ませた後に全体の権限を委譲する。人員配置は、後継者を補佐する人材を付け、その人材を部門間で異動することで各部門の連携を確保し、事業間のシナジーを確保する。(97字)
●ROBINさん
助言は①若手や直営店従業員に権限委譲し、消費者の声を基にした商品開発や新しい分野への挑戦を促し②適材適所の配置転換やジョブローテーションによりモラール向上し、多様な人材を活用し組織活性化を図る。(97字)
●こちょびさん
直営店の部門責任者として組織を運営することで、次期社長としての育成とスムーズな事業承継を行えるようにする。若手を積極的に活用、能力に応じた適切な配置を行い、従業員の士気向上と組織文化の変革を図る。(98字)
(1)ごまさん(開示得点77点)
後継者の飲食サービス業の店舗マネジメントや商品開発の経験を生かし食品加工や直営店の部門責任者として次世代経営者の経験を積み、少しづつ生産販売、経営の権限委譲を進める。人員配置は役割分担を明確にし適材適所で配置。 |
●後継者への権限委譲、人員配置
「後継者の飲食サービス業の店舗マネジメントや商品開発の経験を生かし」については、この部分に点が付いているか疑問です。この記載無しで、代わりに従業員への権限委譲に文字数を確保していれば更に点が付いていた可能性があると思います。
「食品加工や直営店の部門責任者として次世代経営者の経験を積み、少しづつ生産販売、経営の権限委譲を進める」については、設問1の組織構造との一貫性も取れており、良いと思います。
第1問で強みとして「親族による二人三脚の経営体制」と書いているので、現経営者や常務からの権限委譲についても書けていれば更に良かったと思います。
●従業員への権限委譲、人員配置
人員配置について、「役割分担を明確にし」という記載は第1問との一貫性も取れており良いと思います。また、「適材適所で配置」も良いと思います。
従業員への権限委譲については書けていません。
(2)かものしか(開示得点74点)
直営店の部門長として権限委譲し、実績を積ませた後に全体の権限を委譲する。人員配置は、後継者を補佐する人材を付け、その人材を部門間で異動することで各部門の連携を確保し、事業間のシナジーを確保する。 |
●後継者への権限委譲、人員配置
「直営店の部門長として権限委譲し、実績を積ませた後に全体の権限を委譲する」については、設問1の組織構造との一貫性も取れており、良いと思います。
●従業員への権限委譲、人員配置
人員配置について、「後継者を補佐する人材を付け、その人材を部門間で異動することで各部門の連携を確保し、事業間のシナジーを確保する」はアイデア解答っぽいので、点数が付いているかは不明です。ただし、現経営者と常務の二人三脚体勢から後継者1人を中心とした体制への移行に際して後継者を補佐する人材は必要となるので、「後継者を補佐する人材を付け」の部分には点が付いているかもしれません。
従業員への権限委譲については書けていません。
(3)ROBINさん(開示得点61点)
助言は①若手や直営店従業員に権限委譲し、消費者の声を基にした商品開発や新しい分野への挑戦を促し②適材適所の配置転換やジョブローテーションによりモラール向上し、多様な人材を活用し組織活性化を図る。 |
●後継者への権限委譲、人員配置
後継者への権限委譲や人員配置については書けていません。
●従業員への権限委譲、人員配置
権限委譲については、「①若手や直営店従業員に権限委譲し、消費者の声を基にした商品開発や新しい分野への挑戦を促し」と書けており、与件文第10段落の「新たな分野に挑戦」に沿った解答になっているので良いと思います。
人員配置については「②適材適所の配置転換やジョブローテーションによりモラール向上し」と書けており、良いと思います。
効果として「多様な人材を活用し組織活性化を図る」も良いと思います。
ただし、この設問では後継者への権限委譲が重要であるため、全体で何点付いているかは不明です。
(4)こちょびさん(開示得点49点)
直営店の部門責任者として組織を運営することで、次期社長としての育成とスムーズな事業承継を行えるようにする。若手を積極的に活用、能力に応じた適切な配置を行い、従業員の士気向上と組織文化の変革を図る。 |
●後継者への権限委譲、人員配置
「直営店の部門責任者として組織を運営することで、次期社長としての育成とスムーズな事業承継を行えるようにする」については、設問1の組織構造との一貫性も取れており、良いと思います。
●従業員への権限委譲、人員配置
権限委譲は「若手を積極的に活用」、人員配置は「能力に応じた適切な配置を行い」、効果は「従業員の士気向上と組織文化の変革を図る」とそれぞれ書いており、簡潔にまとまっていて良いと思います。
(5)第4問設問2まとめ
この設問においては、書く内容自体では差が付きにくく、後継者および従業員への権限委譲と人員配置を100字でまとまり良く書けるかがポイントのように感じました。
この設問では、4人の中でこちょびさんの解答が一番バランスよくまとまっていたと思います。
■おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
令和4年度の事例Ⅰの再現答案を分析した結果、高得点解答でも意外と得点が付いてなさそうな記載が散見されました。
あくまで私の仮説ですが、令和4年度の事例Ⅰは令和3年度以前から問題構成などの傾向が大きく変わっており、そのせいで全体的に素点が低く、合格率を一定にするための得点調整により素点以上の高得点が付いているのではないかと思います。
私は受験勉強中には事例Ⅰが一番苦手だったにもかかわらず、何故か昨年の2次試験で4事例中最高得点の74点も取れたのが不思議でなりませんでしたが、ごまさん、ROBINさん、こちょびさんの3人から再現答案をご提供いただいたおかげで、私も今更ながら事例Ⅰについての理解が深まり、高得点の謎が解けた気がしました。3人の方々には深く感謝しております。
令和5年度の事例Ⅰはどのような問題が出題されるのか分かりませんが、どんな問題が出たとしても「設問文、与件文、1次知識から当然に言える内容を書く」ことで合格に近づけると思います。
このブログ記事が、令和5年度中小企業診断士試験受験者の皆さまのお役に少しでも立てれば幸いです。
●参考文献リスト
・『2023年度版中小企業白書』(中小企業庁)
・『事業承継の経営学』(落合康弘著、白桃書房)
・『中小企業診断士試験 一発合格: 独学では辿り着けない、予備校では教えてくれない、診断士試験の真実とノウハウ』(「一発合格道場」9代目執筆メンバー著、kindle電子書籍)
・『「まとめシート」流!ゼロから始める2次対策』(野網美帆子著、kindle電子書籍)
・『TBC中小企業診断士試験シリーズ 速修2次テキスト』(山口正浩監修、早稲田出版)
・『30日でマスターできる 中小企業診断士第2次試験 解き方の黄金手順』(黄金手順執筆チーム著、中央経済社)
・『2次試験合格者の頭の中にあった全ノウハウ』(関山春紀、川口紀裕著、同友館)
・『ロジカル・プレゼンテーション――自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」』(高田貴久著、英治出版)
・『グロービスMBAクリティカル・シンキング』(グロービス経営大学院著、ダイヤモンド社)
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