駆け出し中小企業診断士の手探り経営支援奮戦記 by一陽人
読者のみなさん、こんにちは。
タキプロ13期の一陽人(はじめはると)と申します。
今回は、合格後の活動の一例として、私の経営支援活動について書きます。
この内容は、実務補習で体験したやり方に基づき、試行錯誤しながら実施しているものです。
あくまでも、駆け出し中小企業診断士の拙い経営支援活動の一例として、温かい目で読んでいただければ幸いです。
(※この記事は、X社様のご厚意で紹介させていただいておりますが、企業が特定できないように詳細は変えております。)
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目次
■はじめに
中小企業診断士登録のためには、2次試験に合格するだけでなく、15日間の実務経験(実務ポイント)が必要ですね。
合格者の多くは、日頃から中小企業診断実務に従事しているわけではないでしょうから、中小企業診断協会が実施する “実務補習” で実務ポイントを取得するのが一般的でしょう。
私も、中小企業診断実務とは無縁の企業に勤めておりますが、幸運にも実務従事を体験する機会を得られましたので、実務補習を2回受講して10ポイントを取得し、残りの5ポイントはその実務従事のうち5日分にて取得。こうして無事、今年の9月に中小企業診断士登録が完了しました。
そこで、私がどのように診断先企業を見つけ、どんな経営支援を実施しているのかをご紹介します。
なお、これから紹介する内容で、5ポイント(=5日分)しか取得できなかったという意味ではありません。実際には9月に診断士登録してから12月現在まででも10ポイント(=10日分)はカルく超えています。
診断士登録後は資格維持のために、5年間で30ポイント取得する必要がありますので、その申請分も本件で継続して取得中です。
■勤務先の若手社員の実家が会社を経営していた!
合格発表後、2月の実務補習を受講した私は、尊敬できる指導員の先生や優秀なメンバー、そして熱意ある診断先企業に恵まれ、別記事にて紹介したいくらいの素晴らしい経験を積むことができました。
「この経験を活かして、早く中小企業の力になりたい!」(一陽人の心の叫び)
この思いが高まったある日、私の勤務先の若手社員・N子さんのご実家が会社(以降、X社)を経営されているということを聞きました。ちなみにX社は、有機肥料卸売業を営んでいます。
「じゃあ、X社の経営支援をさせてくんないかな?」(一陽人)
「はい! 今度聞いてみます!」(素直なN子さん)
多分ムリだろうと思っていましたが、数日後…。
「父が社長になったばかりで、何をすればいいか悩んでいたので、母(社長夫人)がぜひお願いしたいとのことです!」(N子さん)
え? まじすか! いや~、ダメもとで言ってみた甲斐がありました。
■X社長に「こういう経営支援をさせてください!」とお願い
ただでさえ知名度が低い “中小企業診断士” という資格。奥様の一声があったとはいえ、X社長は「一体何をやってくれるんだろう?」という疑問を持たれることでしょう。
そこで、中小企業診断士として「どんな活動によってX社にどんな価値をご提供するのか」を提案書としてまとめ、X社長に説明しました。その内容はざっくりとこんな感じです。
特にこだわったのは、実現可能性、社長との共創、そして社長による自走です。
というのも、机上の分析だけやって、絵に描いた餅的な戦略&施策を押し付けて終わり!なんていうのは絶対に避けたかったのと、「1年後には私が不要になること」を目指すのが本来望ましいことだと考えたのです。
■やっぱりSWOTはテッパンです!
「有機肥料卸売業って何?」という状態の私ですが、せっかくいただいた経営支援の機会です。それを言い訳に中途半端なことはできません。
土日や平日の夜を使って、外部・内部環境分析を行い、SWOTにまとめ、X社の強みや状況、経営課題に対して仮説立案したうえで、社長にヒアリングしました。
正直、試験勉強よりもしんどかったですが、やりがいはハンパない!
好きなギターもねこ動画も封印して励みました。
以下は、事前調査の切り口や、X社長に確認した情報の一例です。
これらの調査はWebや書籍などで行いましたが、中でも実務補習の際に教わった “業種別審査事典” は、すごく役に立ちました。
初めての企業を支援する際に、意識すべき業界動向や、その業界の財務諸表の平均値などが、約10ページ程度に簡潔にまとめられているのです。
この “業種別審査事典” 、大きな図書館でないと置いていません。地方都市に住んでいる私は、地元の図書館に置いてもらうよう直談判しましたが、1冊20,000円×全10巻と高価なため、却下されました。(笑)
ちなみに、後輩の実家に「財務諸表を見せてください」とお願いするのは、「家計簿を見せて」とお願いするのに近しい感覚があり、多少勇気がいりました。
ですが、あるとないとでは経営支援の質が全然違ってきます。経営支援の際には必ず入手してください。
そして、財務諸表を受け取ったからにはキッチリと数字面から経営課題を読み取らなければなりません。事例Ⅳ・PTSDの私にとって、
“銀行からの融資 完全マニュアル(すばる舎)”
という書籍は大変勉強になりました。
さて、こうして “農業の素人” が、一生懸命に情報を集めて立案したX社の経営課題の仮説ですが、
「この業界が初めてとは思えない。当社の課題をよくわかってくれている!」(X社長)
と、(多少お世辞もあるでしょうが)信頼を深めてくださいました。もちろん、外れた仮説も多々あるのですが、むしろ本当の課題を教えていただくきっかけになったので、仮説は恐れずに投げかけてみるべきでしょうね。
あ、立てた仮説の詳細は社外秘的な内容のため紹介できないのですが、主に売上増のための機会損失改善やアップセル/クロスセル、運転資本改善などについてです。
また、X社の強みの言語化は極めて重要で、後々の施策にも効いてきました!(後述します。)
■X社長と一緒に経営目標を策定
前述の仮説に基づき、X社長に優先度の高い経営課題を伺うと、「費用削減は結構できているはず。売上増が1番の課題。」とのことでした。
それを聞いて、実務補習の指導員の先生が仰っていた「経営者の方は、利益率を上げることよりも、売上増を目指されることが多い傾向にある。」という言葉を思い出しました。
さらに、試験勉強中に受験予備校の先生の言葉、「卸売業のビジネス傾向は“薄利多売”である。」も、記憶の底からよみがえりました。
後述しますが、財務諸表分析の結果、実はX社にとっては売上増も大事なのですが、利益率向上と自己資本比率の改善が重要課題であることが見えてきたのです。 しかし、まずは売上増に向け、機会損失改善やアップセル/クロスセルの具体的施策を検討しました。
■泥臭く業務に関わりX社を理解し、現実的な施策を共創
そこで私が着手したのは、X社の業務を把握すること。
肥料の仕入、商品管理と在庫管理、注文から配送、集金までの流れを、自分もその業務を行うつもりで確認したところ、全部、紙の台帳に手書きの帳簿であることがわかりました。
令和元年事例Ⅰの、葉たばこ乾燥機メーカーA社と同じ “前近代的” な管理方法だと思われるかもしれませんが、小規模企業はこれが普通だと思います。
私はIT化の第一歩として、Excelで簡易DBを作成することにしました。
1次試験の “経営情報システム” でも出題される “正規化” を行いながら、肥料マスタ、顧客マスタ、在庫マスタ、仕入先マスタ、そして肥料の販売データと仕入注文データを設計し、社長との読み合わせで実際の業務データをどんどん入力。
このとき、本当にこのExcelが日々の業務で使いやすそうかを社長に確認しながら作り上げていきました。
いや~、マジでしんどかった。
しかし、これで「どんな作物を栽培する農家さんが、どの時期にどの肥料をどれだけ買ってくれているのか?」が瞬時に分析できるようになったため、アップセル/クロスセルの具体策とタイミングを検討できるようになりました。
また、売掛金の回収モレや不良在庫もビジュアルに把握できるようになりました。
■家族全員で経営に参画!
そんなある日、X社長から相談がありました。
「以前は、他社が扱っている海外原材料使用の肥料の方がはるかに安かったのですが、今は当社の有機肥料の方が安くて手に入りやすいんです。それを農家さんが知らないんですよ。」(X社長)
なんと! それはビジネスチャンスやないっすか!
実は、X社の強みの一つが「国産原材料を使った有機肥料のため、円安やウクライナ情勢などに左右されず、高品質な肥料の低価格、安定供給が可能」だったのです。
そこで、その強みを謳ったA4判のパンフレットを作成し、販売店さんに配布することにしました。
今までもX社では、パンフレットを作ったことがあったそうですが、肥料名と成分、価格など最低限の情報を掲載したシンプルなものでした。(平成30年事例ⅡのB社老舗日本旅館のホームページのようです。)
まず、私がパンフレットの全体レイアウト設計や、X社肥料の強みを農家さんに訴求するようなキャッチフレーズを作成。そしてパンフレットが目を惹きやすいように、イラストレーターである私の息子に、かわいい女の子の農家さんキャラを描いてもらいました。
そのパンフレット原案を見たN子さんが、「私も父の会社の力になりたい!」という一心から、「手書きの文字のほうがもっと親しみが持てるだろうから、私が書いていいですか?」と申し出てくれたのです!
ポップな字体はN子さん、細かい説明文は達筆な社長夫人、その画像化はN子さんの弟さんが担当し、私の作ったレイアウトに貼り付けて完成させました。
こうして家族全員で作ったパンフレットは販売店さんからも好評で、ある販売店さんはその拡大コピーをポスターとして貼ってくれたそうです。
その肥料は、数百袋の追加注文があり、売上増に大きく寄与したのですが、何よりも、みんなで “お父さんの会社” のために力を合わせたというのが一番の成果だったと思います。私だって今回、息子と一緒に仕事できたことは、めちゃ嬉しかったですし。
「一陽人さんのおかげで、経営が楽しくなってきました!」(X社長)
もうこのX社長のお言葉だけで、残る余生、つらいことがあっても生きてゆけそうです。
■X社長へ財務的課題のご説明と対策のご提案
いよいよ財務的課題の提言です。
前述の通り、5年間の財務諸表分析から利益構造と長期安全性に課題があることが見えておりました。
これをご理解いただくために取った方法が、Excelを使った損益計算書の今後3年間のシミュレーション。
売上を〇%アップさせた場合と、原価率や販管費率を〇%削減した場合とを比較し、利益が具体的にどう増減するかをX社長にお見せしたのです。
「がんばって売上を◯百万円増加させても、当期純利益は◯万円しか上がりません。しかし、原価や販管費をこれだけ抑えることができれば、数年前に減らしてしまった役員報酬を元の金額に戻しても当期純利益は◯百万円になります。さらにこの負債の問題を◯年で解決できると考えられます。」(ドキドキしながら説明する一陽人)
その反応は…。
「今まで、売上増が一番大事だと無条件に思っていました。こういう気づかなかった提言をしてくださって目から鱗です!」(X社長)
あ~、よかった~!
■地域の発展を願うX社長
今後のX社施策の予定は、
・原価や販管費の具体的な抑制施策
・マーケティング戦略のためのホームページ見直し
・X社の強みの一つ「農家への土壌や肥料に関するアドバイス力」を活かした顧客囲い込み戦略
など。まだまだやることはたくさんあります!
そんなある日、X社長からこのようなご相談がありました。
「X社は、地域の農家の方々のお力添えがあってこそ。この地域の発展のために、今度は農家さんの経営にもお力を貸していただけないでしょうか。」(X社長)
お~! これは2次の事例企業っぽい展開やないか~っ! 設問4とか5あたりで使われそうなネタやん!
ということで、1年で私が不要となるような自走施策を考えていたのですが、おそらく今後3年先くらいまでは、私とX社、そしてこの地域とのお付き合いは続きそうです。
そのためにも、もっともっと実力をつけなければ!
そんな気持ちから、実践的経験をたくさん積むために私は、11月から別件の地域振興プロボノ活動にも参画しました。
「試験が終わってからの方が勉強は大変だよ。」という、先輩診断士の言葉が身に沁みます。
■おわりに
先日、X社長から豪華な果物の詰め合わせが届きました。X社の有機肥料を使っている、その地域で有名な農園の果物だそうです。
本当は7月に注文してくれたそうですが、あまりにも人気が高くて、発送が10月になったとのこと。すげ~!
その果物は、今まで私が食べた果物とは全く別次元の味がしました。この果物にX社の肥料が使われてるんだなと思うと、飲み込むのがもったいなくて、牛のように反芻したくなりました。
この果物を味わいながらしみじみ思う、
「中小企業診断士になって、本当に良かった・・・。」
以上、こんな長い話に付き合っていただき、ありがとうございました。
どうやら今回で、私が執筆する記事は最後となるようです。そこでみなさんに一言。
みなさんの努力は必ず報われます!
そしてみなさんの力を必要とする企業が、みなさんの合格を待っているということを決して忘れないでください!
おしまい。
次回はオノシンさんの登場です。
お楽しみに!
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